経済産業大臣が指定する伝統工芸品「播州毛鉤(けばり)」を作る伝統工芸士、藤原一次(かずつぐ)さん(83)=兵庫県丹波市山南町和田=は、2年ほど前から、一部のアユ釣り愛好者から寄せられる注文をスマートフォンの通信アプリで受け付け、スムーズなやり取りで好評を得ている。手紙などで受注し、そこから製作、出荷していたが、納品までの期間を大幅に短縮。繊細さが求められる仕事にあって、スマホで送られてくる、欲しい毛バリの鮮明な写真を拡大して確認しながら、望み通りの品を製作している。傘寿を超えてなお、意欲的に新しい技術を取り入れている。きょう18日は敬老の日―。
「ユメヤ商店」の屋号で営む藤原さん。愛好者が好む毛バリはそれぞれで、使う羽根の種類や色も異なる上に、毛バリ自体が1センチに満たない小ささ。アプリ「LINE(ライン)」で送られてくる写真は、鮮明で拡大縮小も自在なことから製作時に重宝している。
これまでの受注は、封筒で毛バリの実物を送ってもらったり、作ってほしい毛バリの写真を同封してもらったりするケースが多かったが、不鮮明で分かりづらいことも多々あった。「よほどピントを合わせてもらわんとね。ちゃんと撮ってもらわないと見えない」
長らく、“ガラケー”を使っていたが、機種が無料だったことからスマホに変更した。連絡先のデータがうまく引き継げず、「お客さんを含め500人分くらい、せっせと妻と手打ちした。えらいことやったわ」と苦笑い。地元のふるさと和田振興会が主催するスマホ教室などに参加したり、詳しい人に教えてもらったりして、少しずつ使い方を習得した。「教室の時はできても、家でやろうと思ったら忘れたりしてね」と笑う。
始めたばかりのラインを仕事に生かせないかと考え、注文を受けるようになった。受注から納品までのスピードが格段に上がったこと以外にも、釣れている毛バリやポイントなどの情報を、仲間からタイムリーに仕入れられるメリットがある。毛バリは場所や時期などで釣果が左右されるため、顧客との情報交換が必須という。
自身が製作した毛バリのテストを兼ね、年に数回、精力的に県内外の釣り場に足を運ぶ。釣行時のちょっとした買い物には、スマホを使ってキャッシュレス決済で支払う。「小銭を出すのが面倒なときがあるでしょ。これを使ったら便利」。商売への導入には踏み切っておらず、「正直、まだよく分かっていないところがあるからなあ」と頭をかく。
「今はだいたいスマホを使えるようになったで」と笑顔。「仕事がスムーズになったけれど、自分は人に釣らせるのが商売。まだ知らない機能も多いはずなので、使いこなせれば便利になりそう」と話している。