兵庫県丹波篠山市の中嶋唯さん(35)が、祖母が残した栗林を継承し、ボランティアの力を借りて剪定などの再生に取り組んだ。大粒の丹波栗が実り、今年初めてJAに出荷したほか、品評会にも初出品し、栗農家として一歩を踏み出した。ただ、利益を上げるよりも、「子どもたちに特産品の魅力に触れてほしい」と、幼稚園での収穫体験などに活用。「自分よりも人のために、と考えていたおばあちゃんを見習い、子どもたちのために栗を活用できれば」とほほ笑む。
受け継いだ木は11本。中嶋さんの曽祖父が植えたもので、樹齢は約60年という。半世紀以上にわたって地域と家族を見つめ続けた。近年は祖母の康子さんが栗を拾い、秋になると近所や親戚に配っていた。康子さんは6年ほど前に施設に入所し、昨年、88歳でこの世を去った。
入所中から康子さんに頼まれて実家に風を通したり、栗を拾ったりしていた中嶋さん。康子さんが亡くなった後、「わが家に栗があるのは当たり前で、小さい頃から一緒に拾っていた。せっかくおばあちゃんが残した栗の木を守っていきたい」と決意した。
ただ、自分にできることは拾うことくらい。どうしたものかと思案していると、知人を介して剪定ができる人を紹介してもらえた。また、栗林に迫っていた竹林を整備しようと、市が貸し出している竹チッパーを借りに行くと、地域おこし協力隊員をはじめ、竹林整備に関心がある人たちが集まった。
さまざまな人の力を借りて栗林を再生。背が高くなり過ぎていた枝を剪定したことや、竹林整備などによって日当たりが良くなったのか、50グラムを超えるものなど以前よりも大粒の実を付けるようになった。今年、JA丹波ささやまの栗部会に入会し、初出荷。「試しに」と栗品評会にも出品した。
しかし、メインは子どもたちのためになる活用。その考えに至ったのも康子さんの存在が大きく、「法要で、おばあちゃんを知るお坊さんが、『“利他行”(自分よりも他人を優先する仏教用語)の人だった』と言われていて、今さらながらにおばあちゃんの偉大さが分かったし、自分もそうありたいと思うようになった」としみじみ語る。自身も母になったことで、より世代を超えてつながっていくものを大切にしたいと思うようになった。
中嶋さんはこのほど、娘の雪乃さん(5)が通う篠山幼稚園にイガ付きの栗を持ち込んで園庭に広げ、園児たちの“収穫体験”を行った。
初めての体験でイガに触れてびっくりする園児もいたが、両足を器用に使って実を出していく園児がいると、みんなでまねして手際よく収穫し、大粒の栗が顔を出すたびに「でっかい!」と歓声を上げた。
中嶋さんは、「子どもたちの笑顔を見られるのがとてもうれしい」とほっこり。「これもおばあちゃんや再生を手伝ってくれた人など、いろんな人のおかげ。これからも力を借りながら栗を守り、子どもたちが特産に触れる機会をつくっていきたい」と笑顔で話している。
本業はペットの身だしなみを整える「トリマー」。