全国的にクマの出没が話題になる中、兵庫県丹波市内の竹やぶで22―24日、くくりわなにかかったシカが野生動物に襲われる事案が2件続いた。1頭は内臓を食い破られており、もう1頭はワイヤーに脚1本を残し、姿がなくなっていた。脚を回収した市は、ふんの状況からツキノワグマの仕業と判断。味を覚えたクマが、シカ肉に執着する事態を招きかねないと、猟師に周辺のくくりわなを引き上げさせた。野生動物を研究する県森林動物研究センター(同市青垣町)は、わなでシカ猟をする猟師が危険にさらされかねないと、有害駆除も視野に適切な対応が必要と事態を注視している。
2件とも同じ場所で、人が住む民家まで50メートルほどの山際の竹やぶ。わなを掛けていた猟師によると、22日朝の巡回時に、内臓を激しく食い破られたシカが仰向けに倒れて死んでいた。損傷したシカの死体は、捕獲報奨金の対象にならないため、埋葬した。シカが倒れていた現場には胃の内容物やふんが残っていた。
同じ場所にわなを仕掛け直し、24日朝に見に行くと、ワイヤーが竹に巻き付いていた。シカの姿はなく、手繰ったワイヤーの先に太ももの付け根から引きちぎったような左前脚が現れた。腸の一部も落ちていた。クマの仕業を疑い、市に通報。担当者が現地を確認し、脚を回収した。
2頭目が襲われた場所で、クマの新しいふんと時間が経過したふんが見つかった。餌を隠す習性があり、脚以外の部分はクマがどこかに持ち去ったと見ている。
猟師は「まさかクマがシカを食べるとは思わず、1頭目は埋めてしまった。思い返すと、小動物にかじられた程度の損傷はでなく、あばら骨が見えるぐらいひどくえぐられていた」と言う。
市の担当者によると、自然死したシカの肉が何かに食い荒らされることは過去にあったが、クマと判断がつく形で目にするのは、今回が初めてという。
クマは本来、肉食獣。わざわざ狩りをしてまで食べない「機会的捕食者」と言われてきた。2件とも、動けなくなったシカを容易に食べられる機会だったとみられる。
クマの生態に詳しい同センターの横山真弓研究部長(兵庫県立大教授)によると、過去に但馬地域で類似事案があったという。わなで駆除、捕獲される年間数千頭のシカのうち、襲われるのは非常にまれということから「特定の個体の仕業」と考えており、「むやみに怖がる必要はないが、2件続くのは嫌なパターン。有害駆除など対応をしっかりする必要がある」と指摘する。駆除可否は、市の要請に基づき、県丹波農林振興事務所が判断する。