「市民もチーム医療に」 コロナ禍との闘い・地方都市の3年間③

2023.12.28
地域注目

県が発表していた感染者の情報

2020年5月21日、44日ぶりに兵庫県が緊急事態宣言の対象区域から外れた。店舗への休業要請も解除され、学校にも子どもたちの姿が戻った。ただ、まだ「第1波」を乗り越えただけだった。

宣言が解除されても抜本的な対処法がない中、同県丹波篠山市では丹波篠山デカンショ祭や味まつりなど、多くのイベントが中止になった。紙面にはマスクを着用した人の姿が多くなり、笑顔が少ない。インタビューなど、表情を写した写真には、「撮影時のみマスクを外してもらっています」という注釈を付けることもあった。

7月に入ると、都市部を中心に再び感染者が増加し始めた。東京で暮らすわが子を心配する丹波篠山市内の母親は、「まるで戦場にいるよう」と震える。一方で国は打撃を受けている観光業を支援するため、「GoToトラベル」をスタートした。「予防して」「旅行に行って」。政策も迷走していた。

2020年末に兵庫・丹波地域で全戸配布された「発熱時相談チェックシート」

この頃には丹波地域でも感染者が増え始めたが、県が感染者の居住地を「丹波健康福祉事務所管内」と発表することに、住民から「(管内の)丹波篠山市か、丹波市か。なぜ明かさないのか」という声が相次ぐ。県は個人が特定されることを防ぎ、本人の意思を尊重していることを伝え、「ウイルスが身近にあるということを認識してほしい」と呼びかけた。人々のおびえが伝わってくる。

4月の第1波、8月の第2波を終えた20年の年末。丹波健康福祉事務所と兵庫医科大学ささやま医療センターの「丹波圏域発熱等受診・相談センター」が、「発熱時相談チェックシート」を丹波地域の全戸に配布した。感染初期の段階から医療が介入する「丹波方式」の要となるシートだ。

シートでは、まず発熱や鼻水、倦怠感、嗅覚・味覚の異常などの症状をチェック。インフルエンザやコロナの患者と接触した可能性があるか、などを記入する。

また、自身や家族が高齢であるか、糖尿病、呼吸器疾患などの持病を持っているか、などを問う。医療や介護の現場でクラスターが発生しないよう、医療・介護施設に勤務しているかどうかの項目もあった。これらにチェックが入った場合も早めの受診を促す。

市民と医療機関が同じシートを使ってチェックすることで、スムーズな受診につなげ、おおよその病気や、重症度、緊急受診の目安を調べることができるものだった。

丹波方式の構築に関わった、同医療センター院長=現・岡本病院副院長=の片山覚医師(68)は、コロナの〝厄介さ〟を痛感していた。異常に強い感染力で、軽症や無症状の人がウイルスの媒介者となって動いてしまう。そして、高齢者は重症化するリスクが高い。

「とにかく高齢者をはじめとする『危ない人を守る』ことが大事。市民みんなが一緒になって感染をコントロールしないと」。市民もチーム医療に入ってもらいたい―。そんな思いを込めたシートは、後に大きな成果を生み出す。

コロナ禍と呼ばれる事態が始まり、初めての年末。いつもなら都市部に出ている子どもや孫たちが実家に帰省し、にぎやかな時期を迎えていた。ただ、この年、親子の思いは揺れた。

本紙20年12月24日号には、「帰省 悩む親子」の見出し。「もし自分がかかっていたら、家族や周りに迷惑がかかってしまう」。ある男性は帰省を取りやめた。一方、「コロナ禍以降、子どもがおじいちゃん、おばあちゃんと会っていない。一番かわいい時を見てもらいたかった」という男性は、密を避けるために東京からレンタカーで帰省した。帰省の条件にPCR検査を勧める親。「こんな時やし」の言葉で諦めた親子。悲喜こもごもの内容は、たった3年前のことだ。

同じ記事中、東京で暮らす人のコメントに気になる一文がある。「5月頃は、通勤時間帯の電車もガラガラだったけれど、今はもう座れないレベル。これだけ感染者が増えてきている中なので、正直、『なっても仕方がないかな』と」

めでたい年明けとなるはずの21年正月。「第3波」がやってきた。

=④につづく=

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