陶芸家がマグロ解体師に 二足のわらじに挑戦 魚料理に見合う器の提案も

2023.12.20
地域注目

自作の丹波焼とマグロ包丁を手に、1級マグロ解体師合格を喜ぶ市野さん=兵庫県丹波篠山市今田町上立杭で兵庫県丹波篠山市今田町上立杭の丹波焼陶芸家、市野貴信さん(30)が、「1級マグロ解体師」の資格を取得した。法被にねじり鉢巻きのいでたちで、威勢の良い口上を述べながら豪快にマグロをさばく解体ショーはテレビでもおなじみだ。家業の丹波焼「信水窯」で日々作陶に励む傍ら、解体師としても活動の場を広げたいとする。「解体ショーを通して、魚の魅力はもとより、『刺身に合うのはこの器』『寿司はこの皿』などとさまざまなマグロ料理に合う食器も提案し、丹波焼をはじめとする器の魅力を広く発信していきたい」と展望を語った。

一般社団法人・全国鮪解体師協会(東京都)が認定する資格で、1―3級まであり、1級認定者は全国でわずか12人。近畿地方では初という(12月6日時点)。

「学生時代からの夢だったマグロ解体師になろう」と、今年1月に同協会の試験に応募。1級試験は書類審査から狭き門。解体師への“暑苦しい”ほどの思いを書面にぶつけ、電話でも直接声を届けるなどして見事、受講の権利を得た。

座学でマグロの種類や特徴、生態などを学び、15分以上にも及ぶ口上を丸暗記し、オンラインで審査を受けるなどした。講習会場の東京に出向き、複数の審査員の目の前で口上を述べながらマグロをさばく実戦的な試験もあった。総仕上げに、船上や六本木ヒルズでの解体ショーに出演する先輩のサポート役として奮闘。現場経験を積み、8カ月にわたる講習・試験を終えて念願の1級取得を果たした。

初めて魚をさばいたのは高校2年生の時。スーパーのアルバイトで配属された先が鮮魚コーナーだった。職場の先輩から「練習あるのみやで」と諭され、タイを相手に必死で包丁を振るった。「最初は包丁で指を切ったり、魚のひれのとげが指を刺したりと傷まみれの日々。今から思うと、なかなか難しい魚からのスタートだった」と笑う。

魚をさばく面白さを感じてきた頃、大阪の黒門市場でマグロの解体ショーを見学。巨大なマグロを日本刀のような専用包丁を使って迫力ある魚さばきを見せる解体師の高い技術と、軽妙な口上で客を楽しませる様子を目の当たりにし、「かっこいい。見る側ではなく、楽しませる側になりたい」と、ぼんやりとだが将来の夢となった。

高校卒業後は、家業の窯業を意識し、奈良県にあるデザイン系の専門学校へ進学。しかし2年間、勉強よりもバイトに明け暮れる日々を送った。バイト先は“やっぱり”スーパーの鮮魚コーナー。一日に300匹以上の魚を三枚におろしていたという。「ハードだったが、そこで鍛えられた」

日頃は、家業の丹波焼「信水窯」で作陶に励んでいる市野さん

専門学校を卒業後、家業を継ぐことに抵抗があった市野さんは、ガソリンスタンドのアルバイトや派遣の仕事で生計を立てていたが、交流サイト(SNS)で故郷の情報を探るにつけ、同世代がしっかりと親の後を継いで陶芸家として活躍している様子が目に入り、「自分も頑張らないと」と陶芸の道に進むことを決心。陶芸や釉薬の学校で基礎基本を学び、26歳で家業に入った。

現在、若手丹波焼陶芸家でつくる「グループ窯」のメンバーでもある。

「陶芸とマグロ解体師の二足のわらじでやっていこうとすると、いろんな壁にぶち当たるかもしれないが、『自分なら絶対にできる』という根拠のない自信を最強の武器としながら、挑戦していきたい」と強いまなざしで語った。

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