1日に発生した石川県能登地方を震源とする巨大地震。被災した人たちのことを思い、「何かしなければ」という気持ちになっている人もいるかもしれない。今、離れた場所にいる私たちにできることは何か。被災した当事者でないと分からないことも多いだろうと、東日本大震災を経験し、震災直後から宮城県石巻市でまちづくりに取り組んでいる兼子佳恵さん(52)=一般社団法人・りとりーと代表理事=に親交のある記者が尋ねた。
―大変な災害が発生した。現地の人の心情をどう想像する
東日本を経験した私の場合、直後は呆然とするしかなかった。その後は食事や家族のことなど、とにかく目の前のことを何とかしなければならないという気持ちだけで体が動いていた。
問題はしばらく時間がたってから。少し落ち着いて一息ついたときに、友人が亡くなっていることが分かったり、今後のことが不安になったりと、ピンと張り詰めていた糸が切れるように、一気に気分が落ち込んだ。
能登の人たちは今も当然つらいと思うけれど、これから先こそ支援が必要だと感じる。
―遠く離れた場所で暮らす人の場合、今、どのような支援ができるか
現地はまだ人命救助の専門家や支援の専門団体、被災した人のニーズ調査が必要な時間。一般のボランティアが入る時期は少し先になる。「何とかしたい」とはやる気持ちは分かるが、場合によっては復旧の邪魔になることもあるので、「待つ」ことも大切な支援だ。
今は募金やふるさと納税で支援することが一番。また、インターネットなどでさまざまな誤った情報が飛び交っているため、全てが正しいと思わずに情報を精査してほしい。
―支援物資を届けたいと思う人もいる
とても素晴らしいことだし、被災した人にとってもありがたい。個人からの物資を受け付けているかどうかなど、現地からの発信をよく見て行動してほしい。
また、支援してほしい物は日々変わっていく。現地の受け入れ態勢が整った段階で、すぐに求められている物資と数がそろっているならいいが、集めている間に時間がたつと、必要なものが変わっていることがある。
全国で同じ支援を考えている人がいると思うので、集まるときは一度に集まる。こちらも現地の発信をよく見ておく必要がある。
―なかなか見極めが難しい
個人的には、まずは物よりも支援金を募り、そのお金でその時に求められている物資を購入する方が良いと思う。私は石川に友人がたくさんいて、連絡を取り合った。「今は大丈夫」と言われていたが、頼られたときにすぐに動けるようにお金を集めておく。
それと、「これがあれば喜ばれるのでは?」というような物資を考えて届けるのは良いと思う。生活必需品以外はなかなか届かないので、避難所の子どもたちが遊ぶおもちゃなどがあると喜ばれるのではないか。
また、被災した地域や周辺の店が営業を再開したら、そこで物資を購入することをお勧めしたい。あるいは、信頼できる人がいれば、その人にお金を届けて現地で使ってもらう。これが最も喜ばれる。
―現地のお店にこだわる理由は
東北でもそうだったが、物資の支援は発災初期など一時的には非常に助かるけれど、地元の店などが営業を再開した後も続くと、地域の経済活動に影響が出てしまう。無料でもらえるものがたくさんあると、地元の店で買わなくなるからだ。長い目で見れば地元のためになるので理解してほしい。
―現地とつながりがない場合は
やはり募金などだが、中には直接、現地の人に届けたいという方もいるだろう。そんな人にお勧めしたいのが、「旅行貯金」。
今から少しずつ貯金を始めて、いつか能登が復興したら、その貯金を使って現地へ旅行し、お金を落とす。現地は観光客が来れば、町や経済に活気が出るし、自分もおいしい食べ物を食べたり、伝統工芸などを買えたりして互いにうれしい。
東北もそうだが、初めは人がどっと押し寄せるけれど、報道が減るにつれて、やがて先細りしていく。被災した地域にとってつらいのは、忘れられていくこと。一般市民ができる支援は、早ければ良いというものではない。支援したいという気持ちを大切に、細く、長く応援していくにはどのような方法があるかを考えてほしい。
―いつかボランティアが入るようになる。注意点は
自分のやりたいこと、やれることを押し付けるのではなく、地元の人が元気になることを考えて。そして、現地の人もできることを見つけてほしい。例えば炊き出しでも、「してあげる」ではなく、できる人がいたら、「一緒に作りませんか?」と誘ってみるのもいい。人は、人のために何かできたときに元気が出る。被災した人ができないことを見つけるのではなく、できることを一緒にやってほしい。
ボランティアなどに「やってもらうのが当たり前」になっていくと、被災者が「被害者」になってしまう。被災者を「当事者」に変え、「自分たちが地域のために頑張っていくんだ」という気持ちを鼓舞できるような活動を心がけてもらいたい。
そして、子どもたちは大人を見ている。頑張っている大人たちの姿を見せてあげてほしい。
これまで何度も言ってきたが、復興できるのは地元の人だけ。どんな活動も持続可能な形を考え、「伴走型」の支援を考えてほしい。