静かな水面に張られた8つのレーン。水上を滑るように、一直線にゴールを目指す「カヌースプリント」。兵庫県丹波市春日町出身の細見茉弥さん(23)=長野県競技力対策本部所属=は、女子2人乗り500メートルで、オリンピック出場を目指している。
日本カヌー連盟のシニア強化指定選手に選ばれ、日本代表としてパリ五輪出場権を懸けて挑んだドイツ世界選手権(昨年8月)は、1分46秒で予選敗退。全体9位に入ったアジア最上位のカザフスタンペアとは3秒差。「詰められない差ではない」と、パリ行き最終切符が懸かるアジア選手権(4月18―21日、東京・海の森水上競技場)で優勝を目指す。
体を動かすのが好きな子どもだった。水泳、器械体操を経て、兵庫県丹波市立春日中学校、同県立柏原高校で陸上部。800メートル、1500メートルを専門にした。丹波市中学総体800メートルで優勝、1500メートル4分55秒53は今も同校の校内記録だ。「身体能力はまあまあ、球技は全く駄目」。これまでは個人競技。人と組むのは初めてだ。
関西学院大学(西宮市)で、たまたま勧誘されて入った体育会カヌー部でみるみる頭角を現わし、競技歴5年目で、五輪を目指せる所まで来た。
陸上で培った持久力は自信がある。筋量が少ない自覚があり、筋トレに励んでいる。座って足で板を蹴り、全身運動で推進力を出す。腕だけでなく、全身の筋肉強化が必要だ。大学時代はコーチがおらず未熟だった漕ぐ技術も、連盟コーチの指導で改善された。「水をキャッチするタイミング、捕まえた水を体全体で引いてくる感覚が身に付いた」と、上達を実感する。
午前中70分漕いだ後、筋トレ。昼食、昼寝を挟み、午後も70分ほど漕ぐ。距離は午前午後で各10―12キロ。練習メニューは、頻度や強度が決められており、一つ一つの質を高めることを心がけている。
昨年10月のかごしま国体(1人乗り)は、200メートル、500メートルともに3位。ペアの浦田樹里さん(早稲田大)は200メートル優勝、500メートル2位。細見・浦田コンビは国内最強ペアだ。前に乗る細見さんが、スタートでピッチ数をどれだけ上げ、どこまでダッシュし、ミドルに落とすか、レース展開を判断する。「前がピッチを上げたら、後ろは着いて行くしかない。自分がバテたら終わり。自分は1人乗りでも後半上げるタイプ。最後まで力を振り絞って戦う」
練習拠点を石川県小松市の木場潟カヌー競技場(ナショナルトレーニングセンター)から、高知県須崎市に移した。アジア大会代表を決める3月の国内選考会に向け調整する。
部屋にテレビは置いておらず、「世情に疎くなっていて、社会から隔離されているよう」なカヌー漬けの毎日。「やりたいことを妥協なくやっている」と、充実感をみなぎらす。
「残りわずかで最大のパフォーマンスができるのか、今は焦りと不安がある。でも、直前になれば、わくわくした気分になる。頑張ります。応援よろしくお願いします」と笑顔を弾けさせた。