兵庫県丹波市の映画館「ヱビスシネマ。」が行っている、映画を見たいけれど、料金がハードルになっている子どものために、大人が鑑賞代を先払いする取り組み「足ながシネマ」に、支援者の輪が広がっている。同館支配人の近兼拓史さん(62)が「子どもの文化の格差をなくしたい」と始めたところ、県内外から賛同者が相次いだ。一学年の児童数ほどの鑑賞券が集まったため、近くの中央小学校6年生44人を同館に招き、映画を観賞してもらった。
「足ながシネマ」は、大人が1枚900円の鑑賞券を、同館の窓口やショッピングサイトで先払いする。対象は18歳以下の子ども。鑑賞した子どもは、ノートに映画の感想と、支援者へのお礼のメッセージを書くことが利用条件。
各地で普及している「子ども食堂」と同様の取り組み。昨年12月にスタートし、3月中旬までに丹波市内をはじめ、関東や九州などから、鑑賞券53枚分の支援があった。支援者からは「自分が子どもの時にもこんなシステムがあったら」という声も寄せられた。
中央小児童の鑑賞は、近兼さんが「1度来てくれれば利用するハードルが下がるのでは」と、同校に提案。6年生の卒業を記念したプロジェクトの一環として実現した。
魚類学者でタレントのさかなクンの半生を描いた「さかなのこ」を観賞。周囲から変わり者扱いされながら、幼い頃から大人になるまで大好きな魚を追い続け、イラストレーターやタレントとして活躍できるようになる物語に見入った。
男子児童は「自分の好きなことを諦めずに続けるのが大事だと思った。人生を勉強できる機会をくれて、招待してくれたいろんな人たちに『ありがとう』の気持ち」と話した。
近兼さんは「みんなを招待した人は『損得』を考えていない。『人徳』の『徳』を積んでいる。映画を見ることで他人の人生を疑似体験でき、心の栄養にもなる。栄養を取り、素敵な大人になって」と伝えていた。