さあさあお立合い、これよりマグロの匠による解体ショーの始まり始まり~―。兵庫県丹波篠山市今田町上立杭にある丹波焼窯元「信水窯」の陶芸家で、近畿初の1級マグロ解体師でもある市野貴信さん(30)がこのほど、近くの立杭陶の郷でマグロの解体ショーを開いた。市内外から約80人が参加。春分の日を過ぎた気候とは思えないほど肌寒い一日だったが、会場には市野さんの「立て板に水」のごとく流ちょうな口上が響き、熱気に満ちあふれていた。
陶芸家とマグロ解体師の二刀流で活動を始めた市野さん。大漁旗を掲げた特設会場に、ねじり鉢巻きに法被といういでたちで、体長約1メートル、36キロの長崎県産本マグロ(クロマグロ)を肩に担いで登場し、拍手喝さいを浴びた。
昨年9月に解体師資格を取得し、今回がデビュー戦。「いつも支えてくれている妻と一緒に」と、舞台に妻・維斗さん(27)を招き入れ、一緒に大きな包丁を持って、ウエディングケーキ入刀の要領でマグロのかぶとを切り落とし、ショーの幕が上がった。
静岡・浜松市から駆け付けた先輩解体師2人のサポートを受けながら、威勢の良い口上とともに大トロ、中トロ、ほほ肉、赤身、中落ちと、手際よく部位を切り分け、それらの特徴や栄養素、お薦めの調理法などを紹介した。
ショーを特別な思いで見つめていた維斗さんの父・熊谷清史さん(62)は、「魚をさばくのが趣味と聞いていたが、まさかマグロ解体師になるなんて」と笑い、「説明しながら大きなマグロを見事にさばく姿に感心した。これからも応援したい」とまた笑った。
巧みな包丁さばきで豪快に解体されたマグロは、握りずしにして提供。参加者は市野さんが手がけた皿に盛りつけられたトロと赤身の6貫をうまそうに頬張った。早々に平らげていた男性グループは、「景気の良い解体ショーで面白かった」「赤身は甘く、トロはとろけるほどにうまかった」と満足げだった。
ショーを終えた市野さんは、「いやー、楽しかったけれど緊張した」とほほ笑み、「練習の成果が発揮できたかな。撮影した動画を見直して課題を見つけて改善し、次回はもっと良いショーができるようにしたい」と話していた。