兵庫県丹波篠山市城東地区の林縁部で、ツツジ科の常緑低木イワナシが、淡い紅色の花を数個、林床にへばりつくようにして咲かせている。ハチやアブなどが蜜や花粉を求め、辺りをせわしなく飛び回っている。
花は釣鐘形で長さ1センチほど。水はけの良い林縁部の傾斜地や岩場に好んで生え、梨のような味がする実をつけることからこの名が付いたという。実は夏に熟し、直径約1センチ。
待ちわびていたのは、昆虫だけではない。植物学の立場から植物体を正確、緻密に描く絵画「ボタニカルアート」画家で、地域の植物を記録している小豆むつ子さん(74)は、「小さくてかわいらしくて、今、一番描きたい植物」と話す。
小豆さんの調べによると、「小さく地味で目立ちにくいから、見つかっていないだけかも」と前置きしつつ、市内で自生が確認できているのはわずか3カ所という。「この花を見てようやく本格的な春の到来を実感できる。今年もこうして出合うことができ、うれしくなりますね」と顔をほころばせている。