支援が必要な児童生徒の授業づくりなどに対話型の人工知能(AI)を活用しようと、兵庫県立氷上特別支援学校(同県丹波市)の黒田一之教諭(38)が、教員向けの「アシストAI」の開発を進めている。AIを教員の“相談役”とし、質問を入力すると、AIが複数の指導案や評価方法などを提案してくれるイメージ。そこから教員が児童生徒に合ったアイデアを選び、より良い授業づくりにつなげる。このほど、兵庫教育大学大学院に内地留学中の黒田教諭の研究開発が、全国の教員らの研究を支援する「下中科学研究助成金」(公益財団法人・下中記念財団)の対象になった。黒田教諭は「必要に応じ、AIの提案をたたき台に授業をカスタマイズする。児童生徒のことをよく知る先生の強みと、AIの強みを合わせられたら」と話している。
国内外で利用が広がる対話式AI「チャットGPT」を活用し、特別支援学校教員の授業づくりに特化したAIを開発している。AIに文科省の学習指導要領や、人の行動を分析して問題解決に活用する応用行動分析学の理論、発達心理学などを読み込ませ、これに基づき、AIが教員の質問に回答する。
発達年齢に応じた各教科の授業づくりに活用できたり、問題行動を起こす児童生徒への対応案を示してくれたりする。
とりわけ開発に力を入れているのが、児童生徒の得意なことを生かす授業づくりにアドバイスをくれる機能。発達年齢のほか、得意なことや興味があることなどを入力すると、入力内容を反映した授業を提案してくれる。例えば、「野球が好きな児童の算数の授業アイデアがほしい」と入力すると、「野球のスコアを取り入れてみては」など、複数の指導案に加え、授業の目標や活動時間、流れ、準備するもの、評価方法までも提案してくれる。
そこから教員が児童生徒に合ったアイデアを選び、授業内容を考える。黒田教諭は「AIの提案で、新たな視点が得られる。得意なことをベースにするので、子どもたちのモチベーションアップにもなる」と話す。
教員の働き方改革や、協働にもつながると期待しており、授業づくりにかかる時間の短縮化、個別指導を行うための教員同士の対話の時間確保にもなると考えている。
丹波市内小学校で特別支援学級を担当していた時、より深く児童に関わったり、役に立てたりすることにやりがいを感じたという。個別支援を学ぼうと、特別支援学校の教員を志望し、2019年度から同支援学校に勤務している。
ダンサーを夢見た生徒を指導した際、チャットGPTが、夢をかなえるまでのステップを具体的に提案してくれたことがあり、AIの可能性を感じたという。「自分が知らない分野の進路指導にもつなげられる。新しい視点を先生にも、生徒にも与えてくれると感じた」と振り返る。
AIの開発は進んでおり、同助成金を活用して、より精度の高いAIを作る。現在、特別支援教育の専門家から知見を得たり、エンジニアなどから助言を受けている。
黒田教諭によると、文科省が指定している、学校現場で教育活動や校務にAIを取り入れる「生成AIパイロット校」の52校に、特別支援学校は入っていないという。「来年の教育現場導入を目指し、先進事例のモデルを提供できれば。多くの人に支えられて研究ができるので、感謝の思いを持って進めたい」と話している。
◆下中科学研究助成金 兵庫県丹波篠山市今田町出身で、日本初の百科事典を出版した平凡社の創業者、下中弥三郎氏(1878―1961年)が生前、学校教育における真摯な研究を奨励することを願っていたことから、63年に創設された。今回は30件が採用され、それぞれ30万円を助成した。