兵庫県丹波篠山市今田町上立杭のテイム・ギャレスさん(55)一家が、脳腫瘍と闘う子どもたちに最新の遺伝子検査を提供するため、インターネットを介して寄付金を募るクラウドファンディング(クラファン)を行っている「日本小児がん研究グループ」への協力を呼びかけている。脊髄腫瘍を患った息子のジョージさん(11)の命を救ってくれた医師が関わっていることがきっかけ。一家は、「同じような境遇の子どもや家族の気持ちが痛いほど分かる。小児がんは時間との闘い。少しでも協力していただければ」と話している。
テイムさんの妻、由香さん(41)によると、ジョージさんが脊髄腫瘍を発症したのは約2年前。早朝、「首が痛い」と泣き叫びながら起きてきた。最初にかかった病院では「寝違い」と診断されたが、激痛が治まらず眠れぬ日々。しばらくして、「毛様細胞性星細胞腫」という希少な病気だと判明した。
その後、セカンドオピニオンで小児がん拠点病院の大阪市立総合医療センターで診察を受け、20時間に及ぶ手術で腫瘍を切除。心配された下半身の麻痺もなく、自分の足で退院できた。
ただ、神経にへばり付くように成長する腫瘍のため全摘出はできず、1年後に再び腫瘍が増大。抗がん剤も投与したが効果がなかった。
そこで提案されたのが、「遺伝子パネル」という検査。一人ひとりの遺伝子の異常を把握して的確に治療薬を探ることができるもので、2019年に保険承認されている。
合う薬が見つかる確率は10%とされていたが、ジョージさんは幸い薬が見つかり、今ではMRIに映らないほどに縮小した。毎月の診察と薬の服用は欠かせないが、生活に支障がないレベルにまで回復している。
由香さんは、「先生から『奇跡が起きた』と報告を受けた日の喜びは、今も鮮明に覚えている。良い病院と先生、薬にたどり着き、本当に運が良かった」と振り返る。
その後の診察時に担当の同センター小児血液・腫瘍科の山崎夏維医師(43)から協力を求められたのが、今回のクラファンだった。
ジョージさんも受けた検査は治療薬を探るものだが、2021年に診断方法に加わった最新の「メチル化アレイ」という遺伝子検査は、治療の入り口の段階でどの種類のがんかを調べ、適切な治療に結びつけるという、診断に特化したもの。しかし、遺伝子パネルと違ってまだ保険承認されていない。山崎医師によると、日々進歩する遺伝子検査と、技術開発から保険承認されるまでの間に生じる「遺伝子検査ラグ」(時間差)があるという。
そこで山崎医師らが所属する日本小児がん研究グループは、一人でも多くの患者にメチル化アレイ検査を提供するため、クラファンで集めた資金を生かそうとしている。
取り組みを知った一家も協力。ジョージさんも集めた小遣いを寄付するなどして同じような境遇にある子どもたちを救おうと活動しており、広く寄付を呼びかけている。
テイムさんらは、「小児がんは早く診断して治療法を見つけないといけない」と言い、「現状を知らないと行動できない。ぜひ皆さんにも現状を知ってもらい、寄付に協力していただきたい」と力を込める。
3月からスタートしたクラファンは第1目標の300万円を突破し、現在、第2目標の600万円を目指している。
山崎医師は、「脳腫瘍は診断が難しく、遺伝子情報がないままでは正しい治療ができないことがある。検査が必要な子どもたちに一人も漏らすことなく結果を届けたい」と言い、「今までに頂いた寄付で1年間は確実に実施できるので、本当に感謝している。今後も継続していくため、国などにも協力を呼びかけるが、クラファンへもご協力を」と話している。
クラファンサイト「READYFOR(レディーフォー)」で4月26日まで。3000円から寄付できる。寄付者には活動報告書などを送る。「脳腫瘍 遺伝子検査 クラウドファンディング」で検索を。