米+名刺=おこめいし 26歳農家の挑戦「農業成り立たせる」 企業イメージの向上にも

2024.05.20
地域注目自然

お米入り名刺の「おこめいし」。商標も登録済み

「名刺」と言えば、ビジネスマンに欠かせない自己紹介ツールで、趣向を凝らしたデザインも増えている。「難波と申します」―。兵庫県丹波篠山市岡野地区を拠点に農業を営む難波聖良さん(26)が差し出した、社名や名前、連絡先などが印刷された袋状の〝名刺〟の中に透けて見えるのは米。「はい、これが『おこめいし』です」

名の通り、米と名刺を組み合わせた商品で、「おこめいし」で商標も登録。一般的な名刺のほか、熨斗タイプやあいさつ、お礼などさまざまなシーンに合わせて制作でき、デザインは顧客持ち込みのほか、難波さん自身もこなす。

入っている米は難波さんらが同市有居や西岡屋地区で生産し、6年連続で最高の「特A」評価を得ているコシヒカリで、祖父の名を冠した「純一米」。日本の家庭で最も消費されるという2合分が入っており、計量いらずの配慮も光る。

主に企業との取引に主眼を置いており、企業側はそのインパクトに加えて、1次産業への貢献や、持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいることをPRし、企業イメージの向上にもつながる。

元営業マンの難波さん。大阪の住宅関連用品などを扱う会社で営業に励み、いかに顔と名前を覚えてもらうかに注力した経験から、農業と組み合わせて、よりインパクトのある名刺を考えた。「例えば社長におこめいしを渡してファーストインパクトを与え、さらにご家族にもおいしいお米を食べてもらうことでより好感を持ってもらえるのでは」

すでに複数の企業がおこめいしを導入している。大阪市の「KTI建設工業」は、記念品として活用。さらにこのほど、同社の玉山勲社長(68)をはじめ、社員らが丹波篠山を訪れ、難波さんの指導で田植えにも挑戦した。社員らは慣れない手植えに奮闘しつつ、「これは大変」「お米の大切さが身に染みた」と口にしながら作業に汗を流した。

現状、同社のおこめいしは難波さんらが手がけた2023年産米だが、今後は社員らが植え、刈り取った米が入る。田植え作業などの写真も掲載し、単なる「お米入りの名刺」を超え、企業の農業に対する思いや取り組みなども込めた「物語」に発展させる。

おこめいしを考案した難波さん(右)と導入している玉山社長=兵庫県丹波篠山市西岡屋で

玉山社長は、「人口減少の時代や環境、SDGsが叫ばれる昨今、1次産業にはとても可能性を感じている」と言い、「若い人が、それも地元で経済活動を起こそうとされている。応援していきたい」とエールを送る。

難波さんは幼い頃、学校が終わるとそのまま農家だった祖父の純一さんがいる田んぼに走って遊ぶ日々を過ごした。その純一さんが他界。農業に情熱を傾けた祖父が残した農地を守るために後を継ぎ、大阪で働きながら週末に農業をするようになった。昨年には脱サラし、株式会社「SOLARC(ソルアーク)」を立ち上げ、本格的に農家の道に入った。

「専業は生計が立てられないというイメージがあり、農業一本で行くことには周囲から『やめとき』と反対もあった」。それでも情熱と「勢い」で農作業に加えて販路構築にも注力。今では大阪など約30店の飲食店に米を卸しているほか、おこめいしの開発、農業体験のワークショップ開催など、その勢いは止まらない。

手植えに挑戦する社員ら。秋に収穫する米が名刺に入る

また、自家生産だけでなく、地域の米も買い取って事業を展開。「農家はみんなプロ意識を持っているけれど、流通や営業は苦手分野。自分だけでなく、地域全体の農業を守り、生産意欲を向上するためにも稼げるようにしていきたい」と語る。

〝面白く、楽しく仕事を〟がモットー。「根本にはじいちゃんの農地を守り、じいちゃんの米の味を一人でも多くの人に知ってもらいたいという思いがある。そして、農業を仕事として成り立たせていきたい。おこめいしはあくまでそのための手段。さらに広げていきたい」。元営業マン、そして、若者の発想を武器に挑戦を続ける。

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