兵庫県丹波市青垣町内で6日夜から7日朝にかけ、ツキノワグマが鉄製の箱わなを壊し、わなにかかっていたシカを奪う事案が発生した。昨年、同町内の別の場所でくくりわなにかかったシカをクマが襲う事案が2件発生。同一個体の仕業かどうか分からないものの「シカを襲う個体」の生息が確実視される。クマの生態に詳しい県森林動物研究センター(青垣町沢野)の横山真弓研究部長は「タケノコなどの山菜、花、木の新芽が豊富にある春に、シカが襲われたことはショック。肉への強い嗜好性がうかがえ、放置すると同じことが繰り返される。問題個体は捕獲を」と警鐘を鳴らしている。
同町中佐治の北近畿豊岡自動車道春日和田山道路の高架そばの山中。雨が降る6日夕方、わなを仕掛けた猟師が、シカ1頭がかかっているのを確認。翌朝、仕留めに訪れたところ、山の斜面の平地に仕掛けたわなが4メートルほど離れた斜面に落下し、天地が逆さまの状態で有害鳥獣防護柵に引っ掛かっているのを見つけた。底の鉄格子が破られ、四方約45センチ、四方約30センチの2つの穴が開いており、大量のシカの毛が残されていた。血痕はなかった。
現場検証した県森林動物研究センターの職員がクマの毛を採取し、状況からクマの犯行と断定した。市は近くのわなを機能停止させ、地元農会に事案の発生を報告した。
横山部長によると、わなにかかったシカがクマの捕食被害に遭うケースは全国で散見され、箱わなにかかったシカが襲われるケースは但馬地域で過去にいくつか事例があるという。県全体で年間4万頭捕獲されるシカのうち、クマに捕食されるのは「何頭か」(横山部長)。シカを襲うのは特定の個体と見る。「成功体験になったことが厄介。学習能力が高く、味を覚え、わなにかかったシカを『ごはん』と思いかねない。繰り返し起こりかねず、ここ1カ所の問題でない」と指摘する。
クマの有害捕獲許可を出す県丹波農林振興事務所は「許可条件に合致している」と、市の申請を待っている。
現場は柵の扉を2つ開けてたどり着く場所で、有害鳥獣防護柵の内側(山側)。最も近い民家まで約400メートル。市は「人通りがなく、柵より内側の場所。捕獲申請に至っていないが、クマの習性を含め、改めて専門家の見解を聞き、判断する」とする。
クマは本来、肉食獣。わざわざ狩りをしてまで食べない「機会的捕食者」と言われてきた。昨年、同町内で確認された2件は、くくりわなにかかったシカが竹やぶの中で動けなくなっていたところを襲われた。
箱わなは65―100キロ程度。イノシシ、シカ捕獲用。力が強いクマが、溶接された鉄格子を破ることはままある。