「豊かさ」を考える 「水になった村」上映会 監督が作品解説

2024.06.29
地域歴史注目

大西監督(左)の作品解説を聞きながら、豊かさとは何かを考える参加者たち=兵庫県丹波市青垣町佐治で

貯水量日本一のダム「徳山ダム」(岐阜県揖斐川町)が建設された徳山村で、村が水没するまでそこで暮らした住民を追ったドキュメンタリー映画「水になった村」(2007年)の自主上映会と大西暢夫監督のトークショーが、兵庫県丹波市の衣川會舘であった。約60人が来場。山川畑の自然の恵みを受け暮らしていた人たちが、自然と切り離されたまちへの転居を強いられる実話を通し、「豊かさ」について思いをはせた。

ダム近くの町で生まれ育った大西監督が東京で働いていた時、水没前の同村をテレビ番組の取材で訪れた。誰もいないと思っていた水没予定地の村で、自給自足に近い暮らしをしているおばあさんと出会った。東京とは違う豊かさがあることに気づき、水没前後の15年間、撮影を続けた。

村に住んでいた頃、急な沢を登って4時間かけてワサビ摘みに通い、「塩さえあれば(育てた野菜や山菜などの保存食で)家族を腹いっぱいにできる」と言っていたおばあさんの転居先を訪ねると、冷蔵庫は空。近くにスーパーがある便利なまちは、買い物に行かなければ何も手に入らない生活だった。

大西監督は、「ダムができたら豊かになるはずだった。どうして豊かじゃないんだ」と観客に問いかけた。

徳山ダムは高度経済成長期の1957年に計画が公表され、2008年に完成したものの、「(利水に)一滴の水も使われていない」と大西監督は指摘。各地の既存ダムの老朽化に触れ、「造りっぱなし。ダムを維持できると思わないし、撤去できるエネルギーもない。国はダムの前にダムを造り、ダムごと沈め、『貯水量を増やしている』と説明する。ダム問題は、原発問題などに通じる。私たちが考える原点は、そこに住む人の生活を無にすることではないはず。いつまでもこういう時代は続かない」と締めくくった。

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