山林整備し「住み続ける」 地域で“守り合う”のが防災 連載「豪雨災害から10年、あの日に得た教訓」①

2024.08.19
丹波の豪雨災害地域注目自然

土砂が流入したままになっている旧谷上公民館で、災害当時を振り返る葛野達也さん。旧公民館は、災害当時から時が止まっているかのよう=兵庫県丹波市市島町徳尾で

2014年8月、兵庫県丹波市市島地域を中心に甚大な被害が発生した豪雨災害から、今年で10年を迎える。記録的な大雨は山腹崩壊を起こし、土石流となって人々の営みを難なくのみ込み、尊い1人の命をも奪った。「丹波は比較的災害の少ない地域」という神話が崩れた瞬間でもあった。それでも人々は立ち上がった。防災・減災を目的とする取り組みや、結んだつながりを生かす活動、災害を機に始めた住民の新たな挑戦は、今につながっている。“あの日”を振り返るとともに、災害から得た教訓をテーマに人々の足跡を追う。

壁破った丸太 つながる大切さ

被害が大きかった市島地域で、とりわけ前山地区の谷上自治会は多くの住民が被災者になった。17日午前1時ごろ、自宅にいた葛野達也さん(69)は、眠れない夜を過ごしていた。雨と雷の音があまりに大きく、「嫌な予感がした」。

屋内に水が入り込んだかと思うと、あっという間に床上70センチほどまで達した。2時か3時ごろ、「ドーン」という大きな音がし、山から滑り落ちてきた2、3本の木が家の壁を突き破った。災害の4年前にリフォームしたばかりの自宅は、大規模半壊になった。

被災後、職場の同僚を含む多くのボランティアが自宅を訪れ、土砂のかき出しなどに汗をかいてくれた。「つながりの大切さを感じた。災害を通じて感じた教訓の一つ」

昨年度、前山地区自治振興会長に就任した。災害から10年がたち、当時、同振興会の中枢で災害対応に当たった役員の多くが任期を終えている。災害の記憶の「風化」を感じずにはいられないという。

コロナ禍で行事が減り、住民同士が顔を合わせる機会が減った。災害当時、あれほど心強いと感じていた住民同士の“つながり”が希薄化しているとも感じている。

一方で、若い力の大きさを感じる出来事があった。昨年度、前山小学校の閉校行事を企画する際、地域で暮らす若者や都市部で生活する出身者が、閉校記念誌の作成やイベントの企画運営を買って出てくれたという。「前山には、若い力がある。そういう方々に、地域を盛り上げる機運が高まることを期待したい」

里山入り危険回避 「地域で守り合う」

山腹崩壊による土砂が民家などを襲った谷上自治会は、山裾と民家の間に20メートルほどの余裕域(バッファゾーン)を設けることで、山裾に住み続ける方法を模索し、実践している。山と民家の間にある危険木などを伐採し、その木を土留めとして設置するなど、山腹崩壊による住家被害の軽減を目的としている。

余裕域の整備は15年、市の復興プラン事業の一つとしてスタートした。集落が集中する山裾の住まい方などを考えようと、NPO法人・地域再生研究センターの井原友建さんを講師に招いて協議。その中で、県の補助金を活用した。

余裕域が本来の機能を発揮するには当然、維持管理が必須で、自治会からは独立した専門部隊「里山づくりの会」を組織。林野庁の補助金を活用し、住民と共に余裕域や、その周辺の森林整備に乗り出した。

21―23年度に実施したこの事業は、現在は同自治会に引き継ぎ、里山整備を続けている。年6回ほど、住民が山に入り、雑木整備や草刈りに励んでいる。事業の補助金申請や、整備エリアの設定などに奔走した、副会長を担った余田明美さん(67)は、「山に入り続けることで、有事にはどのように崩れてしまうのかを学べた。これらを地域の知識として共有していくことで、危険の回避につながり、自然の中で生きていける。地域で守り合うのが防災」

有事の際「誰に助けてほしい?」

多くの住民が被災した谷上自治会は、被災時に住民同士が連携し、地域で守り合う体制をつくるため、住民台帳とも言える避難名簿を作成している。住民の名前や家族構成、緊急連絡先、要介護度などを記載。本人が希望すれば、体の不自由な個所なども書いてもらい、いざというときの避難行動に役立てる。

避難時の活用を目的とした名簿は、20年度に初めて作成。「ペースメーカーを付けているから速く歩けない」「車いすでないと逃げられない」など、事前に知っておいた方が良い情報を書いてもらった。

22年度の改定時、要援護者には「誰に助けてもらいたいか」という項目を設けた。当時、自治会長を務めた森田順子さん(69)は、「自治会役員は数年で変わる。より信頼が置ける人に助けを求めたいのでは、と考えた」と振り返る。

「自治会長や役員、民生委員だけではできない。地域全体で助け合う必要があると考えている」と話している。

【丹波市豪雨災害】 2014年8月16日から17日未明にかけて、兵庫県丹波市市島地域を中心に最大時間雨量91ミリ、最大24時間雨量414ミリ(いずれも北岡本観測地)という局所的な集中豪雨が発生。市島町徳尾で、土砂崩れで自宅が全壊した男性が亡くなった。250カ所以上の林地崩壊が起き、推計で50万立方メートルの土砂が流出した。市内全体で住家は全壊18戸、大規模半壊9戸、半壊42戸、床上浸水169件、床下浸水784件。住宅や農地、農作物、道路、河川などを含む被害総額は94・9億円。延べ1万8000人を超えるボランティアが被災地で汗を流した。

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