幹空洞のソメイヨシノ「治療」 「春日能」奉納の神社 ”最高の舞台装置”伐採回避

2024.08.20
丹波篠山市地域歴史注目

空洞になっている部分があるなど倒木の懸念もあったソメイヨシノの治療に奮闘する氏子たち=兵庫県丹波篠山市黒岡で(提供)

国重要文化財の能舞台などの保存・修復工事が進んでいる篠山春日神社(兵庫県丹波篠山市黒岡)でこのほど、氏子たちが、能舞台の真正面にある1本の桜の木の「治療」に汗を流した。毎年4月に行われる「春日能」の際には桜吹雪を舞わせ、“最高の舞台装置”の一つとなっている桜だが、以前から根元付近が朽ちかけており、倒木も懸念されていた。一時は伐採する意見も出たが、ささやま桜協会の協力で治療法が分かったことで危機を免れた。氏子らは、「切らずに済んでよかった。来年も元気に満開の桜を見せてほしい」と期待している。

同協会の桜守、吉良勉さん(同市不来坂)によると、この桜はソメイヨシノで、推定樹齢は60年ほど。木を腐らせる菌が侵入したことなどから、幹は根元から高さ約1・5メートルほどが一部朽ちており、空洞のようになっていた。

ほぼ毎年、春日能の際に満開を迎える。境内には数本が植わっているが、特にこの木は能舞台正面にあり、風が吹くたびに舞台に向かって花吹雪を舞わせ、幽玄な能の世界を演出する。

特にクライマックスの盛り上がりにはかなく花を散らすさまは、能の登場人物の心情などと相まって、「屋外で見られる能の中で日本一」という観覧者もいるほど、なくてはならない存在になっている。

また、舞台正面の石段を上がって中腹付近から見下ろすと、満開の枝がちょうど舞台の手前に入ることから、カメラマンにとっても最高の被写体だった。

一方で、このまま朽ちていけば危険なため、以前から氏子の中でこの木をどうするか議論されてきた。何とか治療ができないかと、同協会に相談。吉良さんらによる診断で、空洞になっている上部から細い根が生えていることが判明した。

桜吹雪の中で行われた春日能 (2016年4月撮影)

空洞部分をくん炭や赤玉土などを混ぜたもので埋めることで、この根を地上にまで降ろして新たな幹として成長させる手法を採用。青森・弘前城や岡山・津山城などの桜でも行われているという。

氏子らは吉良さんの指導のもと、幹をシートで覆いながら少しずつ土を入れては水を流し込んだり、幹に付着したコケをブラシでこすり落としたりする作業に奮闘。高所作業車も依頼し、菌が侵食していたり、張り出したりしている枝を剪定した。

同神社崇敬会の松尾俊和会長(72)は、「一時は切ることも考えたが、今回治療したことでかなり元気になってくれるのでは。ぜひ満開の桜と能を楽しんでもらいたい」と期待している。

今年は修復工事の関係で春の春日能が9月に変更。桜との共演が見られるのは来年の春日能になる。

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