無知が人を傷つける
言いたい言葉が思い浮かんでいても、スムーズに発せない症状「吃音(きつおん)」。苦しみを知る当事者として、自身の経験を題材にした曲を歌うライブや講演会などを通じ、気づかれにくい症状への理解を深めてもらっている。
小学低学年の頃に本を思うように音読できず、吃音を自覚した。大学時代はロックバンドに所属し、ボーカルを務めた。歌ならスムーズに歌えたが、場の進行(MC)ができずに歌の道を諦めた。吃音を疎ましく感じ、丹波市内の介護施設で長年勤めながらも、他人には隠してきた。
50歳の頃、息子2人の自立を機に「人生でやり残したことはないか」と思うようになり、治療に取り組んだ。その中で、同じ吃音のある多くの仲間と巡り合った。悩みを打ち明けて「一人ではない」と感じた。
同じ時期に吃音の歌手が登場する「月9」ドラマが放送され、衝撃を受けた。「元々人前に出たいタイプ。症状を歌で知らせたい」。友人らを介し、丹波地域の音楽イベントに出演したり、小学校での講演会に登壇したりするようになった。吃音の子どもから「勇気をもらえた」と伝えられたこともあった。
吃音があっても、社会や学校で活躍できている人もおり、「不便はあるが、不幸なことではない」と強調する。「吃音を堂々と言えるようになり、心の中の重りが取れた。当事者が言えるようになるためには、周りの人の理解が必要。見た目では分からないたくさんの症状を知ろうとする気持ちを持ってほしい。無知が人を傷つける」
10月4日午後7時から「正しく知ってほしい吃音のこと」と題し、柏原住民センター(柏原町柏原)で講演する。無料。氷上町清住出身。60歳。