文化庁は5日、日本酒や焼酎などを造る技術「伝統的酒造り」を、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の評価機関が無形文化遺産として登録するよう勧告したと発表した。12月にパラグアイで行われる政府間委員会で正式に決定される見通し。日本三大杜氏の一つ「丹波杜氏」の杜氏や兵庫県丹波地域の蔵元は「うれしい」と口をそろえ、「手作業の酒造り文化が見直されるきっかけになれば」と期待する。
杜氏や蔵人の手によって、こうじ菌を使って米などの原料を発酵させ、各地の気候風土に合わせて築き上げてきた技術。原料のデンプンを糖に変え、その糖を酵母がアルコールに変える「並行複発酵」という発酵技術は世界的にも珍しい。
また近年、海外では「SAKE」ブームが巻き起こっている。日本酒造組合中央会によると、2022年度には、日本酒の輸出総額は約475億円、輸出量は約3万6000キロリットルでいずれも過去最高を記録。酒造りの技術を学ぶため、丹波地域の酒蔵で研修に励む外国人もいる。
政府は21年、伝統的酒造りを国の登録無形文化財に選定。23年にはユネスコ事務局に無形文化遺産登録についての提案書を提出した。登録されれば国内で23件目となる。他には「能楽」「山・鉾・屋台行事」「伝統建築工匠の技」などが登録されている。
日本の伝統的酒造りは、▽口承による伝統および表現▽芸能▽社会的慣習、儀式および祭礼行事▽自然および万物に関する知識および慣習▽伝統工芸技術―という5つの登録基準を全て満たしていると判断された。
鳳鳴酒造(同県丹波篠山市)代表取締役の西尾和磨さん(63)は「杜氏や蔵人たちが一生懸命に仕事を伝え、伝統を守ってこられたからこそ」と喜びをかみしめ、「『國酒』として、海外で認知度が上がるのはもちろんのこと、若者の日本酒離れが進む国内でも需要が高まれば」と期待する。
山名酒造(同県丹波市)の杜氏で、丹波杜氏組合長の青木卓夫さん(75)は「24時間、誰かが現場で面倒を見なければならない。生き物の世話をするような感覚で酒造りに励んでいる。手作りの文化が見直されればうれしい」と期待。「飲むのは人。いくらAI(人工知能)が発達しても、機械では出せない手作りの温かみがあるはず」と話す。
◆丹波杜氏◆ 南部杜氏(岩手)、越後杜氏(新潟)と共に日本三大杜氏の一つに数えられる酒造り集団。江戸時代、主に旧多紀郡(現・丹波篠山市)の村人たちが、1日足らずの距離に位置する兵庫・灘の酒造地帯まで農閑期の冬季に出稼ぎに行くようになったのが始まり。丹波人特有の誠実さ、勤勉さによって名が広まったとされ、灘の銘酒を造り上げ、全国各地の酒蔵にも指導に赴くようになった。丹波篠山市を代表する民謡「デカンショ節」にも「灘のお酒はどなたがつくる おらが自慢の丹波杜氏」という歌詞がある。