兵庫県丹波市の「たんば恐竜博物館」の教育普及専門員で、岡山理科大学大学院の博士課程、稲葉勇人さん(27)を中心とする研究グループが、化石に残るタンパク質を染色し、直接見ることができる技術を世界で初めて開発し、論文を発表した。見た目だけでは種の特定が難しい化石でも、タンパク質の存在を確認して解析することで、高精度な種同定が可能になる。絶滅生物の進化や生態などを探る研究分野「パレオプロテオミクス」の発展に大きくつながるという。
化石を薄く削った標本を使い、骨の主成分であるコラーゲン(タンパク質)を染色する方法。タンパク質の存在と分布位置を可視化することで、タンパク質が良好に保存されている化石を選別する強力なツールになり、安価に研究できるとともに、研究効率が飛躍的に向上するという。
タンパク質は、遺伝情報を担うDNAよりも化学的に安定しており、数百万年以上にわたって化石内部に残存する可能性があるとされる。
従来のタンパク質分析は、化石の一部を粉末にして成分を抽出する方法が主流だった。この方法では、化石に付着した微生物や、研究過程で混入した現代のタンパク質まで一緒に抽出してしまう可能性があり、分析結果の信頼性が大きな課題だったという。
稲葉さんらは、瀬戸内海の海底から産出された数万年前のゾウ類の化石を用い、化石の組織を壊さずにタンパク質を可視化する方法を試みた。生きている動物の場合、タンパク質を確認する特殊染色法という技術が確立されており、これを応用。複数種類ある染色法の中から、コラーゲンをより鮮やかな赤色に染色する方法を突き止めた。化石に残る他の成分には反応せず、コラーゲンだけを染色できるという。
染色したタンパク質が本当に化石由来であるかを証明するための分析も実施。その結果、絶滅したゾウ類のアミノ酸配列とほぼ一致した。
稲葉さんによると、将来は数千万年以上前の恐竜化石に残るタンパク質を探したり、アミノ酸配列の解読に挑戦することで、生物進化の謎を深く解明できたりするとし、数年以内に恐竜化石での技術確立を目指す。
篠山層群からは約6万点の化石が見つかっているが、種の同定にはつながっていない化石が多くある。「丹波にどのような恐竜がいたのか、より詳しく推測できるようになるかもしれない」とし、「この技術が、誰も見たことのない恐竜のタンパク質の発見など、未来の研究の扉を開く一助になれば」と話している。



























