「縁故米」今年はいくら? 県内屈指の産地も「米高値」切実 値付けに悩む生産者、値上げ覚悟の購入者

2025.09.09
丹波市地域地域注目自然

乾燥調整、籾摺り、選別を終え袋詰めされた令和7年産新米=兵庫県丹波市内で

水稲の作付面積が兵庫県内一の丹波市内で稲刈りが進み、新米が出回り始めた。高止まりする米価を背景にJA丹波ひかみの令和7年産米の「仮渡金」(米を出荷した農家に支払う仮払金)が、主力のコシヒカリで1万5000円(1等玄米30キロ)と、昨年の8500円から1・76倍に跳ね上がった。「経営」「ビジネス」で米を栽培する生産者は「良い値」と喜ぶ。一方、損得度外視で友人、知人ら縁故ある人に相場より安い価格で米を“譲って”いる生産者も多く、新米の値付けに悩んでいる。縁故米に頼ってきた人たちは値上げを覚悟しつつも、「どれぐらい上がるんだろう」と気をもんでいる。

JAに出荷、米穀業者に売却する農家はもちろん、市場で販売しない直売のみの生産者も仮渡金を気にする。生産者が直売するとき、「売る」相手は、一般消費者と、縁故者に大別される。一般と縁故の価格を同額としている生産者もいるが、縁故者には「売る」というより、「譲る」感覚で、買う側も「分けてもらう」感覚のことが多い。

一般直売価格は、仮渡金より上が基本。10ヘクタール以上耕作する80歳代の生産者は、「1万5000円でも玄米1キロ換算で500円。備蓄米とさほど変わらない。丹波市産の新米コシヒカリがこの値段。少し上乗せする。それでも高くはないだろう」と言う。

米が主力作物の別の60歳代専業農家も「仮渡金より安くは売らない。市場価格より、何割も安いしね」と言う。

肥料、農薬、燃料、作業委託費用も上昇、生産コストはめきめき上がっている。

農産物直売所に並び始めた新米。精米1キロ900円程度から。昨年の出端より1・5倍程度の高値がついている

身内価格 値付けを迷うのが、縁古米。「身内価格」「友人価格」で相場より格段に安く、時に無償のこともある。仮渡金が6500円だった2年前までは、縁故米価格は気にされなかった。仮渡金と同額でも安く、生産者が気の毒に思われるくらいだったからだ。1万5000円に上昇した今年、「仮渡金と同額で」と言っていいのかどうか、一部生産者は思案している。

「労力や経費を考えたら買った方が安い」と言われるような小規模、零細米農家は多い。赤字でも作り続けるのが米だ。自分の田んぼで取れた米を食べたいこだわりがある人、農地と農機があり、「作らざるを得ない」人もいる。事情は違えど、家族や親戚のため、おいしいと喜んでくれる友人に分けてあげたい、と「商売抜き」に米作りをしている人の悩みは深い。縁故米は価格に根拠がなく、多くの場合、価格交渉もない「言い値」取り引きだからだ。

30アールほど作っている零細農家は、自家消費分のほかは友人に譲っている。昨年は8500円。「今年は1万円と言おうか、1万3000円と言ってもいいんだろうか」と考えあぐねている。友人に「高い」「自分を相手に商売するのか」と思われたくない。そんなつもりは、毛頭ない。

別の30アールほどの生産者は、身内に紹介された東京都内の家族に、5年前からコシヒカリの精米をほぼ毎月20キロずつ送料込み8500円で送っている。「余った米だから」と、米価が高騰しても値段は据え置き。この間、値上がりした送料を差し引くと、令和6年産コシヒカリは1キロ362円。20キロで、都内で買うより1万円近く安いようで、気を遣った先方から頻繁に菓子が届く。しまいに「こんな値段で大丈夫ですか」と心配する電話があった。「新米から値上げすると伝えたけれど、いくらが妥当なのか分からない」と困っている。

「仮渡金がそんなにするの」。知人から縁故米を買っている70歳代男性は目を丸くする。自宅分だけでなく、子に送る「故郷のおいしい米」も買っている。「金額がいくらでも買わせてもらうと腹はくくっていても、いくらか気になる。早く金額を知りたい」と苦笑いする。

まとまった農地を預けている70歳代の男性は、一般直売価格で購入している。「自分で作れないからやむを得ず預けている。水利費は私が負担しているし、土地を貸していることを勘案し、少しでも安く分けてもらえたらうれしい」と、縁故扱いを望む本音を漏らす。

50歳代の兼業農家は「仮渡金が6000円台だった頃から1万円で買ってくれていた人は、今年も1万円。価値を認めてくれていた人。知り合いでもない人が1万円を聞きつけて買いに来たら、1万8000円にする。付き合いとはそういうもんやろ」と話した。

同JAの令和6年産コシヒカリ1等30キロは、追加払いが11月と3月に2度あり、出荷契約対策の100円を加え、1万1200円まで上昇している(3月31日時点)。令和7年産米も追加払いがあるかもしれない。

縁故米は即金でやり取りされることが多く、仮渡金と同額だった場合、令和6年産米は8500円で売買が完了。追加払い分は加味されていない場合が多い。譲ってもらう側が、仮渡金上昇幅の大きさを驚く一因になっている。

市内の農産物直売所に並ぶ精米した新米のコシヒカリは5キロ4500円(1キロ900円、税込み)程度から。ある農園は、新米コシヒカリ30キロ玄米を税込み1万8000円(1キロ600円)で一般販売している。価格はまちまちだ。

市内スーパーの新米価格(精米)は1キロ950―1000円(税込み)程度。令和6年産の国産米がこれよりわずかに安く、輸入米はさらに安い。1キロおよそ400円(同)の備蓄米を販売するドラッグストアチェーンもあるが、現在は入荷待ち。

玄米は、精米すると、1割程度が米ぬかになり目減りする。

丹波市は水稲の作付面積が県内一。県内屈指の米どころだ。「令和の米騒動」が起こってからも、縁故米の恩恵を受け、米価上昇をどこか人ごとのように感じていた人も、切実に感じる「実りの秋」になりそうだ。

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