丸?角? みそ?すまし?
「もういくつ寝ると、お正月♪」―。お正月と言えば「雑煮」。その歴史をひも解き、地域ごと、あるいは家庭ごとに異なる雑煮を楽しむ初めてのイベント「雑煮―1グランプリ」がこのほど、兵庫県篠山市で開かれた。雑煮文化を研究している松本剛さん(59)が企画。参加者らに、「丸餅・角餅」「みそ・すまし」「焼く・焼かない」など、津々浦々の雑煮を紹介したほか、「わが家の雑煮決定の要因」は、地域性はありつつも、「家庭内のパワーバランスがかかわっている」という仮説を提唱した。みなさんのおうちの雑煮はいかに?
丸角分岐ラインが存在
松本さんによると、雑煮の起源を探ると、室町時代に書かれた文献「鈴鹿家記」に「雑煮」という言葉が登場する。
もともとは、大みそかの夕方、神仏に供えた餅を元旦に降ろし、名の通りさまざまな具を加えて煮たものがルーツで、その後、武家社会と結びついて儀礼化していき、一般庶民にも広がったという説がある。
西日本は「丸餅」、東日本は「角餅」を用いることが多く、その「分岐ライン」は石川県から和歌山県にかけてで、ラインが県を分断している場合は、同じ県でも見事に分かれているという。
また、角餅文化圏の中でも丸餅を食べる地域もあり、理由を探ると、西日本出身の大名が領地替えで東日本に移り住んでいるケースなどがみられる。
本来は丸い餅、太陽や月に由来
本来、餅は太陽や月、鏡に由来する丸いものだったが、江戸時代に人口が急増した江戸では、丸める手間を省くため角餅が誕生したと伝わる。
餅は丸・角に加えて焼く・焼かない、汁は白みそ・赤みそ・すましなど、さらに具の有無、その内容と、雑煮の種類は非常に多い。
松本さんが地元の篠山市民611人を対象にアンケートを行ったところ、篠山では▽丸餅(88%)▽白みそ(64%)▽大根、ニンジン入り―という京都風雑煮が標準的ということがわかったという。
味は台所預かる人次第、ルーツたどることも
一方、兵庫県尼崎市出身の松本さんは、幼い頃、丸餅・すまし・具は白菜のみの雑煮を食べていたそう。
父はぜんざいのような「小豆雑煮」を食べる鳥取出身、母は焼き干しえびなどが入った「薩摩雑煮」の鹿児島出身。不思議に思った松本さんは、さらに祖父母の出身地を調べると、祖父はブリなどを入れる福岡出身、そして、祖母が丸餅・すまし・白菜のみという愛媛・宇和島出身ということがわかった。
このことから、本来、違う雑煮を食べてきた人が集まって家族になった場合、その味を決めるのは、「台所を預かっている人が決める。つまり、家庭内の力関係が垣間見える」という仮説を提唱した。
きな粉雑煮、あん餅雑煮も
イベントではほかに、篠山のスタンダードな雑煮のほか、白みそ仕立ての雑煮から餅を取り出し、きな粉を付けて食べるという「きな粉雑煮」(奈良)や、餅の中にあんこが入った「あん餅雑煮」(香川)などの雑煮7種を食べ比べ。また鳥取からの参加者が「小豆雑煮」を持ち寄り、本場の味を提供した。
参加した人たちは、各地の味に「おいしいなぁ」とうなずいたり、少し悩んでみたりしながら、一足早く正月気分を味わいつつ、雑煮を通して親睦を深めていた。