兵庫県篠山市に87歳の”ブロガー”がいる。「認知症予防に」と、80歳を目前にした2010年からパソコンに向かい始め、「白髪のモコのブログ」と題して、日々の暮らしの中の雑感や、昔ながらの円筒状の赤いポスト(丸ポスト)を訪ね歩いている記録を掲載。今日ものんびりと執筆を続ける。
同市長安寺の元食堂経営、森本幸治さん。娘から勧められてブログを始めた。パソコンのキーボードをほぼ右手だけでこつこつと操作し、1日7、8時間は画面に向かう。
ブログでは、何気ない日々の出来事から人が訪ねてきたこと、家族で旅行に出かけたこと、病院を受診したことなど、森本さんの日常を写真付きで掲載している。
丸ポストは、ブログ友だちに「こんな趣味もあるよ」と教えてもらい、11年ごろから各地の丸ポスト巡りを始めた。国内に丸ポストは5600カ所ほど残っているといい、このうち森本さんは3000カ所ほどを訪ね、写真に収めている。地元の篠山市や近隣市はもちろん、近畿、九州北部、四国、中国地方、東京西部などは「ほぼ制覇したはず」という。
各地を訪れても名所やグルメには目もくれずで、「旅行好きの人からすれば『何とつまらんことを』と言われそう。でも、ゆっくりしていたら時間ばかりかかってポストが回れない」。それでも旅先で人の情に出合うとほっこりする。道案内をしてくれたり、お菓子をもらうことも。「ありがたい、人の気持ちを感じることが多い」ことがやりがいになっている。
記録を残しておこうと、ブログがある程度まとまると本にしている。このほど、自分の生涯を振り返ったり、近況をつづった「続・私の人生式次第」を自費出版。経営していた食堂を閉めた後に「私の人生式次第」を出版しており、そこでは書ききれなかったことに近況を加え、続編を書き上げた。
昨夏、デイサービスで知り合った市内の96歳の男性がエッセイ集を自費出版したと聞き、刺激を受けた。「年齢は自分の方が八つ以上も若い。いっちょ、やってやろう」と奮起したという。
「続・―」では、幼少時代の思い出、16年一緒に暮らした愛犬チェリーのこと、食堂を開くまで転々とした仕事のこと、度々苦しめられた病のこと、愛妻の死と悲しみなどを、ユーモアと情愛たっぷりにつづっている。巻頭には家族みんなに米寿のお祝いをしてもらう様子を切り取った写真が並んでいる。
昨年末に体調を崩し入院したが、ブログで知り合った東京の友人が、「旅行のついでに」と見舞いに来てくれた。「わざわざ気の毒でしたけど、ブログを通じて自分の心が伝わっているのかなと思う」と喜んでいる。