業績悪化などのため、4月から宿泊と入浴を休止した兵庫県篠山市河原町の「王地山公園ささやま荘」。人員の見直しなど経営改善を図りながら、今後も継続するレストランや宴会などの飲食部門をテコ入れし、健全な運営につなげたい考えだ。そこで、4月からスタートしたのが年間を通じた特産のイノシシ肉を使った郷土料理「ぼたん鍋」や焼き肉の「焼きぼたん」の提供と、国内外を問わず人気が高まっている「刀剣」の鞘を愛でながら料理を味わう「さむらい御膳」などの新メニュー。「料理一本」で再興を目指す施設を取材に訪れた。
2階の大きな窓から見えるのは、戦国時代に多紀郡を治めた波多野氏の本拠、八上城があった高城山。別の窓からは、徳川家康が西国大名の抑えとして築城した篠山城跡が見える。
篠山の観光の主力と言える城下町内にあり、2つの国史跡が眺望できるというロケーションにもかかわらず、宿泊部門を休止せざるを得なかった理由を、同施設を運営する第三セクター「アクト篠山」は、「経営努力が欠けていたと言われても仕方がない」と話す。
同施設は1984年に国民宿舎としてスタート。その後、2002年から同社の前身、「クリエイトささやま」が管理・運営し、10年からは同社が指定管理者として運営してきた。
しかし、客数減などで赤字経営が続いていることや、施設を改修しようにも多額の費用がかかることなどから、宿泊部門を休止し、飲食部門のみとすることを決めた。
新たな経営方針について、「市民のための施設」という原点に立ち返り、同窓会や忘年会、さまざまな会合で利用してもらうようPRを進めるほか、仕出しも強化。観光客にもこれまで以上に売り込んでいくという。
そこで用意したのが「ぼたん」。例年、シーズンの11月から3月にかけて「ぼたん鍋」を提供していたが、「夏でも食べたい」という声があったため、業者と連携してシーズン以外でも通年で提供できるよう、冷凍のイノシシ肉を確保。焼き肉にする「焼きぼたん」も提供することにした。
同社が以前から売り出しているぼたん鍋「雪ぼたん」も売り。通常の味噌ベースではなく、牛乳と白だしのスープで、シチューにも似たクリーミーな味わいが特長だ。
また、近年、刀剣にハマる女性「刀剣女子」が増えていることや、外国人観光客にも刀剣が好まれることから、市内の収集家に協力を依頼。江戸時代につくられた刀の鞘「蝶鮫散黒漆研出鞘大小拵(ちょうざめちらしくろうるしとぎだしさやだいしょうこしらえ)」を借り受け、豪華絢爛な鞘を愛でたり、写真撮影を楽しみながら会席を楽しむ「さむらい御膳」を考案した。客を待つだけでなく、市内の歴史施設を管理する一般社団法人「ウイズささやま」と連携し、旅行業者に売り込みをかけていくという。
同施設の三谷孝志さんは、「食事は絆を深める場。人の輪を大切にするささやま荘にしていきたい。また、篠山がこんなにすばらしいところだということもPRできれば」と話していた。