兵庫県丹波篠山市の訪問歯科衛生士で、食生活アドバイザーの飯田聡美さん(50)、管理栄養士の細見多恵子さん(47)が中心となって月1回(最終火曜日)、高齢化が進む西紀北地区にある草山地区コミュニティ消防センター(同市本郷)で実施している「北(ほ)っこり食堂」が、スタートから1年が経過した。食事が偏りがちな一人暮らしや高齢者世帯のお年寄りに、栄養バランスのとれた弁当(一食500円)を提供したいとボランティアで始めたところ、毎回40食ほどの注文がある。ボランティアの柔軟さを活かして定着し始めた一方で、本当に食事を必要としている人への手立てが課題という。
7月の「北っこり食堂」―。お昼前から少しずつ人数が増え、ピーク時、顔馴染みの10人ほどが家族団らんのように昼食を共にし、笑顔が広がった。毎月利用している女性(81)は、「おかずがおいしい。友だちとゆっくりして帰ります」と笑顔。会話するうちに飯田さんがふと、女性の顔に傷があるのに気付く。「家でふっとなって、こけてしもてなぁ」―。女性は、今年冬までは夫婦仲良く利用していたが、3月に夫が他界。今は一人暮らしだ。
「子ども食堂」が話題になる中、高齢化が進む同地域では、お年寄りに食事を提供する場こそ必要ではないかと感じていた細見さんと、一人暮らしだった自身の父親が体調を崩したことがきっかけで、在宅の高齢者の食事が気になり始めたという飯田さんが意気投合。昨年5月にスタートした。
利用者にはその都度、次回の予約注文を聞くほか、各自治会の協力を得て、開催案内のチラシを回覧してもらい、周知に努めている。回覧が人の手から手へと渡るうちに会話が生まれないかというねらいがある。
同地区以外の人でも利用できる。コミセンで食べて帰る人もいれば、持ち帰る人もいる。出張パン屋などが“出店”することもあり、それを目当てに訪れる人も。近くの家庭を担当したヘルパーが自身の昼食にと注文してくれたり、「デザートに」と、手作りのドーナツを差し入れてくれる人もいる。本郷自治会がコミセンのいすを、高齢者でも扱いやすい軽いものに買い替えてくれた。
7人の仲間と都合を調整し合い、夏休みには自分たちの子どももスタッフとして動員。規則などに縛られず、注文する人の要望に柔軟に対応できるのも、有志で運営している強みでもある。
認知されていく一方で、飯田さんは、「本当に必要な人に食べてもらえているだろうか」と自問する。課題は交通手段。同地区は市町村有償運送が運行しているものの、コースから外れるエリアもある。足の悪い人や引きこもりがちな人に届ける宅配も考えているが、ガソリン代やスタッフの数を考えると、クリアすべき壁は高い。
細見さんは、「少しずつ進歩していきたい。自分たちも楽しみながら、『ちょっと寄っていこか』『また行こか』と思ってもらえたら」と話していた。