兵庫県丹波篠山市職員の振替休日について、適正に取得していないケースが常態化していることがわかった。2018年度に発生した約1万1600時間のうち、市が定める規定期間「4週以内」の取得は35%にとどまり、今年12月1日時点で取得していない1300時間は、本来の振休制度にはない「未消化」の状態。規定労働時間を超えた際に生じる割増賃金も、市は、「職員の了承は得ている」として支払わない方針を示す。背景には人手不足のほか、財政を健全に保つため人件費を抑制したい考えがあるが、働き方改革の中、法令順守を徹底すべき行政。総務省は「振替の原則からかけ離れた運用」と指摘する。
振休は、あらかじめ休日だった日(時間)を「労働日」に切り替え、ほかの労働日を休日にするもの。このため日曜日に働いたとしても、「休日労働」にはならず、割増賃金は発生しない。
一方、よく似た制度として代休があるが、こちらは突発的に休日に働くことになり、代わりに以降の労働日の中で休みを取る。もともと休日だった日に働いているため休日労働となり、割増賃金が支払われることになる。
ただし、労働基準法では、振休であっても働いた日の週のうちに休日が取得できない場合、法定労働時間を超える勤務があったことになるため、週をまたがる振休は割増賃金の対象となる。
同市では通常、規定労働時間(週38時間45分)を超える勤務がある場合、▽残業手当▽振休(1時間単位で取得可)―の二択で運用している。同市の振休は、市が主催する行事や講習会、住民学習会などが基本で、「ノー残業デー」に残業する場合なども適用し、事前に職員の了承を得て振休にしてきた。
行事多く”宿命”
約460人の職員のうち、管理職や消防職員などを除いた330人で換算すると、18年度は、1人当たり、年間35時間の振休が発生していることになる。丹波篠山ABCマラソンや全国車いすマラソン、丹波篠山デカンショ祭など、イベントが多い同市職員の”宿命”ともいえる。
規定通り、4週以内に取得したのは4105時間で全体の35・4%。4週以後に取得したのは6173時間で53・2%、いまだに取得できていないのが1324時間で11・4%となっている。
割増は「放棄」?
振休取得の際には書面に記入し、押印も必要になる。取得日を記入する欄もあるが、これまで職員が日時を指定しても取得しないケースや、「空欄」のままにしておき、後日、取得できた際に記入することもあった。
もちろん業務が忙しいため取得したくてもできない職員もいたとみられるが、振休を「いつでも取れる休みのストック」という意識もあり、市は、「規定にこだわらず、職員が自身の都合の良い日に休日を取得するなど、振休を『年次有給休暇』のように取り扱うことがあり、それを所属長も弾力的に承認していた」とする。
しかし、労働基準法や市の条例を厳格に適用すれば、未取得者は規定労働時間を超えていることになるため、割増賃金を支払わなければならず、約400万円が”未払い”の状態にあるともいえる。
市議会一般質問で振休問題について質問した議員は「割増賃金を支払って精算すべきでは」と指摘。市は、「本人の都合で規定を超えていることもあり、割増賃金は『放棄』したととらえることもできる。適正に消化している職員から不公平感も出てしまう」という認識を示している。
一方、職員組合は以前から割増賃金の支払いを要望しており、両者の間には見解の相違がある。
労使で改善を
割増賃金などを規定する条例に違反しているかについて、市は、「振り替える日を指定していないことや、管理職が取得を頻回にチェックしていなかったことなどルーズな点があったことは真摯に反省しているが、職員の了解の上で振り替えている以上、割増は発生せず、条例違反にも当たらない」とし、「制度の周知徹底を図り、規定内の取得を促す」とする一方、「『休んで』と取得は呼びかけてきたが、労使ともに認識が甘かった」とした。
以前にも議員から指摘があったことから、市は今年8月、管理職に対して適正な時間外勤務や振休の運用について研修を実施。ノー残業デーの残業を振り替えることはやめ、時間外手当にすることも確認した。
また、11月には職員組合とも交渉。組合は市に対して、4週以内に休日を取得するよう体制整備に努めることを求めつつ、職員の側も適正に振替休日を取得していくことを確認したという。
総務省「あり得ない」
総務省は、「事前に休む日を指定していないことなど、原則からかけ離れた運用で、振替休日ではないように思える。規定の4週を超えて休むことは制度上あり得ない」と疑問視し、「職員が自己都合で規定を超えて休んでいる状況があったとしても、それは管理者がしっかり管理すべきもの。どのような理由でも規定労働時間を超えるならば割増賃金を支払うのが基本」と指摘。「働き方改革で行政は率先垂範が求められる。丹波篠山市は正しい運用に改善すべき」とした。