兵庫県丹波篠山市の中心市街地を流れる一級河川「黒岡川」の隣接地に住む70歳代の男性が、約20年前から無断で河川内に木を植えるなどの違法行為をしており、河川環境が著しく悪化。川が水を流す「流下能力」が低下し、景観だけでなく、防災面でも懸念が生じている。長年にわたって住民から苦情が出ており、地元自治会長会も正式に対応を求めたことから、県は今月19日から樹木の伐採工事に着手する。男性は以前から近隣住民に対して恫喝(どうかつ)などを行い、清掃活動を妨害していたという。
伐採の工事区間は来迎寺橋から篠山川合流地点までの約800メートルの区間。県は約2カ月をかけて高さ3メートル以上の高木約50本をはじめ、約5000平方メートルで樹木を伐採するほか、河川内に堆積している土砂も今年11月以降に撤去する。費用は約600万円を想定している。
現場の河川は川幅約8メートル。男性は1998年ごろから樹木を植えているほか、河川に重機を下ろして掘削するなどしてきた。県丹波土木事務所によると、河川管理者である県の許可を一切得ておらず、河川法違反の状態。茂った樹木や土砂などの影響で流下能力は40%ほど低下しているという。
県はこれまでにも男性に対して対処を求めてきたが、「地球温暖化を防いでいる」などと言い、応じてこなかった。
同事務所によると、近隣住民が樹木を伐採しようとしたことがあったが、住民の勤務先まで出向いて怒鳴りつけたり、警察を呼んだこともあったという。
洪水の危険性が高まっており、地元の自治会長会が17年、近隣の16自治会長の連名で河川改修の要望書を県丹波県民局に提出。同事務所が治水上、問題が生じていることを調査で確認し、防災や減災を目的にした緊急対策として工事を決定した。
繁茂している樹木のすべてが男性が植えたものか確証が得られないことなどから、通常の維持管理工事として実施し、男性に対する費用請求や罰則などは検討していないという。
近隣住民は、「もともと浸水被害が出やすいエリア。樹木が茂っており、洪水の心配だけでなく、台風時に樹木が倒れてきたらどうしようかと冷や冷やしていた。ようやく長年の懸念が解決する」と胸をなでおろす。
5日には県が近隣住民に工事の概要について説明会を開催。男性も姿を見せ、「温暖化についてどう考えるのか」などと声を荒らげ、工事業者や県に対しても、「裁判所へ行くぞ」などと口にしたが、男性以外の参加者らは全員、工事の開始を歓迎した。
同事務所は、「長年の懸案事項と認識していたが、対応が遅くなっていたことをお詫びする」とし、「治水と環境は相反するところもあるが、地元のみなさんの強い要望もあり、治水を優先して樹木を伐採する」と説明した。