織り上がるまで最短で1か月
新型コロナウイルスの発生で品切れが続く市販マスク代わりに、布マスクづくりが流行するなか、兵庫県丹波市の「丹波布伝承館」に、国指定選択無形文化財「丹波布」を使った布マスクがお目見えした。同布1反は、綿から手で糸を紡ぎ、草木で染め、機で織り上げるまで、最短で1か月かかる。織姫の手仕事の結晶が22日まで展示されている。
「つけ心地は抜群」
同布技術者の黒木加奈美さんが「市販品が手に入らないので」と、自分用に作ったマスクは、淡いピンク地にグレーの格子柄がアクセント。サクラの枝を染めた糸で織った反物を切って使った。
市内で栽培された和棉で織った丹波布と、無農薬無化学肥料栽培のガーゼ2枚を縫い合わせた。「つけ心地は抜群。愛用しています」と黒木さん。
糸の出来が、布の仕上がりに影響
糸づくりから織り上がるまで、1反につき1、2か月かかる。時間がかかるのが、最初の工程の糸づくり。糸車でよりをかけながら、均一に細くつむいでいく。糸の出来が、布の仕上がりを左右する。
同施設では反物(幅約37センチ)で、長さ10センチあたり1000円ー1200円程度で販売している。「マスクは、手で縫うのでその手間もかかるし、販売するとなると、もう少しコストがかかるかな。いくらが適正価格なのが分からない」と笑っていた。
黒木さんが着用しているのを見て、自分の布でマスクを作る後輩も出てきている。
「静かな渋い布」
同布は、江戸ー明治期に盛んに織られ、京都周辺に出荷された。昭和初期に、京都・東寺の朝市で民藝運動提唱者の柳宗悦が発見し「静かな渋い布」と称え、世に出した。
機械紡績に押され廃れたが、研究者の後押しで再興。1952年に国の文化財指定。2008年に開設した「丹波布伝承館」で、同布の展示と、後継者育成のための教室を開いており、黒木さんも卒業生。これまでに約80人の技術者が巣立っている。2年間技術を学んだ後輩たちの卒業制作展「新人創作展」も22日まで開催中。