兵庫県丹波市山南町に周囲を山々に囲まれながらも、イノシシやシカによる獣害がない地区がある。その秘訣は、住民総出による防猪柵(金網)の小まめな点検補修。“鉄壁の防御”を誇る集落の取り組みは研究者からも注目されている。
集落は同市山南町小野尻地区。このほど獣害対策を研究している兵庫県立大学大学院環境人間学部の院生2人が視察に訪れ、防猪柵を見て回ったり、住民たちの「獣害ゼロ」への心意気に触れた。
院生らは同大教授で、県森林動物研究センター(同市青垣町)の主任研究員でもある山端直人さんと視察。同集落の農会長で防猪柵対策委員会の安井寛明委員長(73)らが案内役を務めた。
小野尻地区は、他の山村集落と同様、古くから獣害に悩んでいたといい、イノシシやシカの侵入を防ぐために石を積み上げて築いた高さ1・5メートルほどの猪垣(ししがき)が散見できる。“ミニ万里の長城”を思わせる景色だ。
住民によると、猪垣は江戸中期に築いたと伝わる。その後はトタン、のり網、小規模の金網へと移り変わり、現在の大規模な金網は、2003年に防猪柵対策委員会を組織し、05―06年度に集落の山際に設置した。その延長は6キロ強にも及ぶ。
住民らは、「防猪柵の弱点は扉にある」とし、「イノシシは怪力なので、開閉するため強度の弱い扉の下側のフレームを鼻で持ち上げ侵入してくる」と解説。その欠点を補うため、地面から30センチぐらいの個所に、鉄製のL型アングルを3本取り付けて補強すると共に、扉のフレームに鼻を引っ掛けられないようにするアイデアを紹介した。
また、防猪柵の一斉保守点検を年2回、組ごと(6つ)に分かれて実施。目視点検や補修をしやすくするため、また柵の寿命を延ばすためにも、柵の裾に草木が茂らないように定期的に除草剤を散布し、獣や倒木などで柵が破損していたら、その都度補修しており、「小まめな保守点検が重要。そしてそれらのことは農家、非農家に関係なく、住民総出で行うことが何より大切なこと」と力を込めた。
院生らは、「どこの集落でも柵の管理が大変と聞くが、小野尻ではそれを住民全員で積極的に行えているところがポイント。獣害ゼロという成果も団結力のたまものだと感じた」「『誰かがやってくれる』ではなく、『自分のこと』として捉えていることが、多彩なアイデアを生み出すことにもつながっているのでは」などと感想を述べていた。
安井委員長は、「社会構造の変化でサラリーマン家庭が増え、田畑への愛着が薄れつつある。いかにこの思いを若い世代に引き継いでいくのか、後継者づくりが課題」と話した。
市によると、最新18年度の同市の獣害被害額は約3870万円。年々増加傾向にあるという。