今年に入り、猛威を振るっている新型コロナウイルス感染症―。緊急事態宣言の発令などをへて、全国各地の感染者数は小康状態になっているものの、東京では再び増加傾向にあり、「第2波」が懸念されている。感染拡大からこれまで、兵庫県丹波篠山市、丹波市の地域社会を維持するために奔走した人々に当時を振り返ってもらい、今後の備えを聞いた。今回は丹波市医師会副会長で、内科医師の野上壽二さん(61)。
マスクやゴーグル、ガウンを探し回ったが、ほぼ手に入らず、ほとんど丸腰で診察していた。こわいとは感じなかったが、自分もかかるかもしれないと、覚悟はしていた。
自身が経営する医院を休診せざるを得なくなったら、慢性疾患の通院患者をどこにお願いしようかと考えていた。病院の医療崩壊の危機が取り沙汰されたが、最前線の開業医の感染防止対策は、自助努力に委ねられた。
ヒヤッとした症例を経験した。京都、大阪からの帰省客と会った後、発熱と味覚障害を訴える高齢の患者があった。患者は、施設を利用していた。熱はさほど高くなく、呼吸器症状もなかった。病院でCTを撮影してもらったところ、肺炎症状もなく、ほっとした。「疑い例で、ギリギリのところでり患せず、本人も関係者も肝を冷やすケースは、あちこちであったと思う」
3月に丹波市内で1例患者が出たことで、市民の感染防止の気持ちが引き締まったと感じている。「住所を公表しない人もいる。あの患者さんが、自身の住所を丹波市と公表してくれたから、みんなが気をつけようとなった。どこの誰か教えろと公表を迫る電話が行政にあったと聞いている。犯人捜しのようなことや、誹謗中傷は絶対にしてはいけない。感染者を攻撃すると、感染を疑っても、差別を恐れて検査や受診をしなくなる。そういう人が職場や家庭でうつし、まん延していく。差別は、自分たちの身を危うくする」
丹波市医師会の副会長として頭を悩ませたのが、会員が交代で出務する休日診療所の運営。普段接していない初診患者ばかりを診るのはリスクがあった。市が防護服を用意、受け付け職員を守る感染防止のビニールカーテンを取り付け、執務ができた。「地域医療の土台の開業医が崩壊すると、コロナ以外の疾患も含め地域の医療が崩壊するので、気を遣った」
気温と湿度が下がる秋から冬にかけて、第2波が来ると想定している。検査体制が整備され、1波の経験もあり、対処のしようはあると思っている。「誰もがかかるかもしれないと考える。クラスターは起こらないに越したことはないが、起こると想定し、小さく封じ込める方法を考える。今のうちに備えをしっかりしたい」。