怒りの感情をコントロールする方法を学ぶ講演会「アンガーマネジメントのススメ」がこのほど、兵庫県丹波市で開かれた。日本アンガーマネジメント協会ファシリテーターの梶原由美さん(67)が講師を担当。「コロナうつ」「コロナ疲れ」など、新型コロナウイルスの影響が続いており、家庭や職場の変化からストレスをためている人も多いと思われる昨今。今年6月、パワハラ防止法(労働施策総合推進法)が施行されたことから、アンガーマネジメントは企業からも注目を集めている。要旨を紹介する。
◆怒りは防衛感情
アンガーマネジメントは1970年代にアメリカで生まれた心理トレーニング。日本でも2011年に協会が設立された。
アンガーマネジメントができるようになると、場所や表現方法を選びながら上手に怒れ、怒る必要のないことは怒らなくなり、他人を傷つけず、自分を傷つけず、物に八つ当たりせず、上手に怒っていることが表現できる。習得すると、人間関係が円滑になり、組織や家庭運営もスムーズに、そして生き方が楽になる。
怒りは第2次感情。怒りの根っこにある不安、悲しい、むなしい、苦しい、つらい、怖い、焦り、心配、罪悪感などの第1次感情に気付くことが重要だ。「自分は大切にされていない」という思いが第1次感情。ネガティブな感情の水が器にどんどんたまっていき、あふれ出してしまうと怒りの言動となる。
これらの感情が容量に達しても、怒りを表現できないとストレスがたまり、心身に悪影響を及ぼす。怒りは身を守るための防衛感情で、人にとって自然な感情。怒ることはだめではない。「悔しさをばねに」などと行動を起こすモチベーションにもつながる。
◆深呼吸し書く
アンガーマネジメントには、衝動のコントロールがある。怒りの衝動は長くて6秒。カチンときて言い返すなど衝動的に反射せず、6秒待ってクールダウンして怒りの波を乗り切る。
まずは深呼吸。手のひらに指で頭にきていること、イライラしていることを書く。「たいしたことない」などと落ち着く言葉を心の中で唱えることや、いったんその場から離れることも有効だ。
怒りの記録をつけることも勧める。あいまいで捉えどころのない怒りを文字で書く。その場で、分析せずに直感的に書く。書くことでクールダウンでき、客観的に見つめられる。怒りの傾向やパターンも見えてくる。
◆「べき」の境界線
私たちを怒らせるものの正体は、自分が信じている「こうある『べき』」が裏切られたとき。会社はこうあるべき、夫はこうあるべきなど。相手が自分の望む通りの反応をしてくれない、思い通りに物事が動いてくれない、今の状況が自分の予想と異なるなど。要するに、現実が自分の思い通りになっていないだけ。
そもそも、「べき」は人それぞれ違うもの。「自分と同じなので許せる」「少し違うが、まぁ許せる」「許せない」と、自分の「べきの境界線」を理解する一方で、他人の「べき」を認める。「少し違うが、まぁ許せる」範囲を広げるのが大事。
◆「怒」ではなく「叱」
怒るのではなく叱(しか)る。効果的に叱って自分の気持ちが相手に伝わるようにする。そのポイントは、▽叱るときは1度に1つのこと。過去のことを引っ張り出さない▽叱る基準をその時の機嫌で変えない▽叱るのは行動のみで、相手の人格や性格を否定しない▽叱る目的を明確に▽「いつもお前は」や「絶対そうだろ」と決めつける表現はしない―が大切だ。
アンガーマネジメントは、自分の怒りをコントロールすることであって、相手を変えることでもなく、正義の味方になることでも、人格者になることでもない。
全ての人が簡単にシンプルに繰り返しできる心理トレーニング。風通しの良い職場、家庭、地域環境は、モチベーションも業績もアップする。