兵庫県丹波市内の山中で、ヤマトリカブトが花期を迎え、鮮やかな紫色の花が残暑の太陽を浴びて輝いている。ひと際目立つ花を見ていると、長い口器を持つマルハナバチが、花に全身を潜り込ませ蜜を吸っている。「三大毒草」とも言われ、人や脊椎動物が摂取すると、量によっては死に至る毒性の強いアルカロイド「アコニチン」を含む。蜜に毒がないのか、蜜を吸ってもハチは平気なのか、どういうことなんだろう。
玉川大学(東京都町田市)のミツバチ科学研究センターによると、「根ほど高い濃度でないものの、蜜腺や花弁にもアコニチンが存在することが報告されている」という。
毒はあった。では、マルハナバチは、蜜を吸っても平気なのだろうか。
同センターは、「神経系に作用する毒物なので、昆虫でも潜在的には毒物として作用すると考えられる」とする一方で、「致死量に達するほど高濃度のアコニチンをハチが自ら摂取することはない」と言う。マルハナバチの研究では、ハチは蜜に含まれるアコニチンの濃度が高くなるに連れ、花の訪問回数を減らすことが報告されており、トリカブトの花を受粉させるのに役立つハチ種は、受粉させずに蜜だけもらっていく「蜜泥棒ハチ」よりも、毒に対して寛容ということも分かっているという。
同大農学部教授で、同センター研究員の佐々木謙さんは、「トリカブトは花蜜中の毒を使って、受粉に役に立つ『お得意さん(毒に寛容)』を集め、役に立たない『泥棒バチ(毒に不寛容)』を寄せ付けないように選別しているとも考えられる」と話している。
マルハナバチは「お得意さんバチ」ということのようだ。ただ佐々木教授によると、「お得意さんバチ」が、アコニチンを解毒できる性質を備えているかどうかは分かっていないという。