兵庫県丹波圏域の第2種感染症指定医療機関、県立丹波医療センター(同県丹波市氷上町石生、秋田穂束院長)は、2床の高度治療室(HCU)を含む11床で、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れている。昨秋から続く「第3波」は、退院でベッドが空くとすぐに次の患者が入院するの繰り返し。満床に近い状態が続いており、病院一丸となって院内感染を防ぐとともに、懸命に患者の治療にあたっている。
高齢・症状重い患者多く
同病院感染防止対策委員長の西崎朗副院長(62)によると、12月10日までに75人の患者を受け入れた(うち丹波圏域19人)。第3波では、中等症、重症患者の割合が多くなっている。入院基準の変更で、高血圧や糖尿病といった基礎疾患があったり、中央値が69歳と高齢だったりと、軽症でも重症化リスクを抱えた患者が多く、現場の緊張感は高まっている。
新型コロナウイルス感染症患者は、県のコーディネートセンター(CCC-hyogo)が、入院先を割り振る。丹波圏域は患者が少なく、「1波」「2波」は、感染流行地域の阪神間の医療機関で収容できずオーバーフローした患者の受け入れが主だった。「3波」では、県全体の患者増を反映し、宍粟市、姫路市ら県西部の患者も受け入れている。
患者の感染経路は様々だが、医療機関や介護施設、学校などで発生したクラスターで感染した人のほか、「3波」では、家族間感染が増えている。感染流行地域に出掛け、通夜に参列したり、家族の会食の場に都市部からの帰省者がいて、その帰省者が感染者だったと後で分かり、濃厚接触者となった家族を検査すると陽性だった、というようなケースもある。ほとんど自宅から出かけない人の感染もあり、現場は危機感を募らせている。
プロトコル(標準治療法)はできており、検査や薬剤投与のタイミングなど、誰が担当医になっても同じ治療が提供できるようにしている。受け持ち患者を抱えながら、コロナ患者の対応が上乗せされて負担が増す中で、特定の医師にのみ負担が集中するのを避けるよう努めている。
西崎委員長は、「第1波は、『分からないので怖かった』。第3波は『分かったけれど、やはり怖い』。短期間で急激に悪くなる例も経験した。薬剤は、ステロイドとレムデシベルを投与しているが、特効薬がないのを痛感する」と言う。
人工呼吸器をつける重症患者をHCUで診ているだけでなく、重症寄りの中等症を、鼻から高流量の酸素を投与するネーザルハイフローで呼吸管理するなどしながらコロナ患者の病室で粘って診ている。「看護部は、以前より重い人を診なければならず、抱えるストレスは以前より多いと思う」と気遣う。
「外から病院を眺めても、これまでと何も変わったようには見えないが、歯車が一つ狂うとたちまち医療がひっ迫する状況。コロナ患者がさらに増え、コロナ以外の患者さんの治療に影響が出ることを懸念する。私たちはできるだけのことをする。みなさんもぜひ今一度、正しくマスクを着ける、人との距離をとる、感染流行地域との往来を避けるといった基本的な防止策の確認を」と呼びかけている。
退院患者見送るのが何よりの喜び
「入院生活お疲れ様でした。一日も早く元の生活に戻れるように、スタッフみんなで願っております 丹波医療センタースタッフ一同」―。
療養上の世話を通し、主治医以上に患者と密接に関わる看護師。感染対策をしているとはいえ、未知のウイルスへの恐怖、不安を感じた1波、2波を院内感染なく乗り越えたことが自信になり、病状が重い患者が増えた「3波」の看護を自信を持ってできている。「感染対策だけでなく、より良い看護を考えている」と、病棟担当師長は明るく笑う。
退院が決まったコロナ病棟入院患者の食事に、折り鶴にお祝いのメッセージを書いて配膳する試みは、スタッフの提案で始まった。折り方を知らなかった看護師も折れるようになり、ナースステーションに患者の回復とスタッフの感染防止、コロナの収束を願う千羽鶴ができた。
「3波」は高齢者が増え、食事介助やオムツ交換といった業務が増え、訪室回数が増えた。認知症を患う患者に、感染防護用ガウンの袖口を破られるといったこともあり、負担感は増している。
重症患者が入院するHCUはケア度が高く、2人の患者に看護師1人が配置されている。容態の観察、たんの吸引、薬の投与、栄養注入と訪室頻度が高く、医師と看護師で2日で50枚の防護服を消費するといった具合。放射線技士、臨床工学技士、理学療法士らも完全防護で入室する。特定の人に曝露が集中しないようにしたり、入室時間を計測し、より短時間で必要な処置が行える方法を模索したりしている。
高井裕美看護部長が、コロナ患者を受け持つ看護師のメンタルヘルスケアのために臨床心理士との面談を提案。思いを吐露できる場ができ、ストレスによる職場離脱を防ぐ一助となっている。
縁故ない土地での入院生活に心細さを覚える人もいる。「なぜ自分が」と、感染したことにショ
ックを受ける患者もあり、患者の不安感にも寄り添ってきた。
回復して退院する患者を見送るのが、何よりの喜び。102歳の患者も無事退院していった。退院時に病室に残してくれる感謝のメッセージや、患者がかけてくれる「ありがとう」の言葉を支えに、きょうも患者と向き合う。