兵庫県丹波篠山市内のとある地名の由来ともなった桜の一種「ウワミズザクラ」が見頃となり、新緑がまぶしい里山に彩りを添えている。「波々伯部(ほほかべ)の地名はこの木が由来です」。そう語るのは、「丹波の祇園さん」として親しまれている波々伯部神社の宮司、近松財さん(74)。同神社の住所は郵便物受け取りなどの便宜上、「丹波篠山市宮ノ前」となっているが、本籍地の表記は「丹波篠山市波々伯部」。同神社境内とその脇の農地の極めて狭い範囲を指す地名として残っている。
近松宮司によると、ウワミズザクラは、古くは「ハハカ(波波迦)」と呼ばれ、古代、「亀甲占い」に用いられていた。ハハカの木を朝廷に献上する民が、この地に小さな集団をつくって暮らしていたことから「ハハカベ」と呼ばれ、それが転訛して「波々伯部」となったという。
漢字で「上溝桜」。「占いの際、ウワミズザクラの材に溝を彫ったものを用いたから」「ウミガメの甲羅やシカの骨に溝を刻み、ウワミズザクラを燃やした火でそれらをあぶり、その時に出来たひび割れの形や方向で吉凶を占ったから」など名前の由来には諸説ある。
現在も天皇即位に伴う「大嘗祭」に供える米を育てる地域を決める「斎田点定の儀」で行う「亀卜」(亀甲占い)にウワミズザクラが用いられている。
ウワミズザクラ 北海道の西南と本州、四国、九州の山野に分布する落葉高木。日当たりの良い、小川沿いなど湿った環境を好む。4―5月、葉が開いてから、長さ10センチほどのロールブラシのように見える総状花序(小さな花を多数、密に咲かせる)を付ける。花は白色で5枚の花弁からなる。京都、新潟などでは、つぼみの総状花序を塩漬けにしたものを「杏仁香」と呼んで食用するという。