山から鐘が「空中散歩」 ワイヤー張り巡らせ下山 秘仏観音の遷座を前に

2021.05.14
地域

木と木の間に張ったワイヤーを伝って“下山”してきた鐘=2021年5月7日午前9時51分、兵庫県丹波篠山市で

兵庫県丹波篠山市藤岡奥の東窟寺の裏山にある「岩谷観音」が建物の老朽化などで、今年中に麓の本堂裏に遷座することを受け、このほど一足早く鐘楼にある鐘が“下山”した。約300キロの重さがあるため、林業家らが工夫を凝らし、木と木の間に張ったワイヤーを伝わせて降ろす空中移動を実施。ゆっくりと麓に降りてきた鐘に、関係者らは、「さすがの職人技」と感心していた。

麓の同寺から約600メートルの山道を登った場所に位置する岩谷観音。秘仏の本尊・十一面観音は、小遣いがなくなった人が月末に参拝すると金運に恵まれる「つごもり観音」としても知られている。

建物の老朽化や檀家の高齢化などを受けて遷座が決まっている。遷座の一環として、観音堂のそばにあり、「心願成就の鐘」として親しまれ、祈願祭や大晦日などに鳴らされてきた鐘も降ろすことになった。

同寺の岩谷晃圓住職(83)によると、現在の鐘は昭和30年代に造られた2代目。先代は第2次大戦中に金属として供出されたという。山上に鐘を上げる時は、大人が4人がかりで数日かかったという。

相当の重量がある上、「索道」(空中に張り渡したワイヤロープに吊るして資材などを運搬する設備)を設置すると費用がかさむことから、作業を請け負った「稲葉林業」(京都府南丹市、古川徳親社長)が作業方法を検討。結果、木と木の間にワイヤーを張って降ろす方法を考案した。

4月下旬から作業に入り、麓までの最短距離を考えながら、ワイヤーを伝わせて降ろしては次の木にワイヤーを掛けていく作業を計7回繰り返し、無事に麓まで降ろした。

ゆらりゆらりと空中散歩を楽しむかのように降りてくる鐘の様子を見守った檀家らは、「うまいことしてやなあ」と感嘆の声を上げていた。

作業を担当した同社の西岡和哉さん(45)は、「初めての作業だったが、『どうやって降ろすか』と考えることが楽しかった。鐘を山から降ろすなんて、もしかすると生涯で、最初で最後の作業かもしれません」と笑顔。岩谷住職は、「さすがやなあと思った。遷座に向けて一つ作業が終わったことでやれやれです」と胸をなでおろしていた。

落慶式と遷座開扉大法要は今年11月に営まれる。

関連記事