出歩く訳ある「徘徊」 大切なことは「思い」を見つける【認知症とおつきあい】(16)

2021.07.03
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認知症の人の中に、家族が知らない間に家を出て、戻れなくなる人が増えている。家族が気付いて探し回り、警察に捜査依頼をすることもある。夜中、家族が眠っている間に家を出て帰れなくなり、通行人に見つけられる人もある。

「徘徊」と言えば、あてもなく歩くと捉えられてきたが、本人には行動の訳がある。

「小学校の娘を迎えに行く」という人、「実家の父母に会いに行く」と言う90歳の女性、「仕事に行かないと」と職場へ向かう人、「妻の帰りが遅いから」と迎えに行く人、それぞれの人にその人なりの行動の意味がある。

「徘徊」でひとくくりにすると、なぜ本人が出ていこうとしたのか、どんなときに出ようとするのかなど、本人の思いを見つけることができない。

認知症の人は、周囲の環境が落ち着かないとき、不安や混乱を感じて自分も落ち着かなくなる。家族が忙しい夕方やスタッフが忙しく動き回る時間帯、家族や人の姿が見えず、一人残されたとき、「ここにいてもいいのか」「何かしないといけない」と、ソワソワしてしまう。

一度出ていこうと思い立った人を引き戻すのには工夫がいる。この人はこんな状況のときに不安になりやすいと分かったら、不安になる前に手を打つこともできる。

ある人は、夕方になると「実家に帰る」と言うので車に乗せて実家に向かうが、目的地に着いても本人は「こんな家やない」と車を降りようとしない。「じゃあ、お義母さんの家に帰ろうか」と連れ帰ると気が済む、と話された。

訪れた実家はすでに建て替えられ、思い描いた生家ではなかった。それでも毎日車で送っていくことで、本人の思いに寄り添った家族だった。

もし、1人で歩いて出かける方なら、後から追いかけて引き戻そうとするのは困難だ。思いを通したい一心で動く人は、追いかければ追いかけるほど逃げようとして、怒りを表す人もいる。そんなときは、少し先回りして、偶然出会ったようにして声をかける。「一緒に帰りましょう」と。

寺本秀代(てらもと・ひでよ) 精神保健福祉士、兵庫県丹波篠山市もの忘れ相談センター嘱託職員。丹波認知症疾患医療センターに約20年間勤務。同センターでは2000人以上から相談を受けてきた。

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