元大阪府財政課長の斎藤元彦氏(43)=自民、維新推薦=が、前副知事の金沢和夫氏(65)らを破って初当選した兵庫県知事選。県会自民党会派が割れ、丹波篠山市選出の小西隆紀県議(県会自民党議員団幹事長)が金沢氏を、丹波市選出の石川憲幸県議(自民党県連幹事長=当時)が斎藤氏を推したことで、丹波地域の自民党員は、敵味方に分かれて戦うことになった。斎藤氏を推した丹波市内の党員からは「若い人を担いで良かった」と、石川県議を評価する声がある一方、金沢氏を推し、敗れた丹波篠山市の党員からは、「白けた。自民党自体に飽き飽きしている」と厳しい声が上がっている。
従来、県知事選挙は、丹波市、丹波篠山市とも、それぞれの市の自民党支部と、井戸敏三前知事の後援会・新生兵庫をつくる会、谷公一代議士の後援会、県会議員の後援会が一体となって戦ってきた。その先頭に立っていたのが、自民党丹波市支部長の石川県議と、丹波篠山市支部長の小西県議だった。
丹波市では、県会自民党会派分裂のあおりで新生兵庫がこれまでの枠組みから外れ、金沢氏の選挙運動の中心になった。前回知事選までの味方の大将、石川県議は、敵方の大将になった。県職員のOB、OGらで構成する新生兵庫は、大きな井戸陣営の中で一定の役割を果たしてきたが、新生兵庫自身が選挙を仕切ることはなく、丹波市では選挙運動のノウハウがなかった。
丹波市の自民党の重鎮は、党の国会議員が応援に駆け付けた昨年11月の丹波市長選挙時に、「斎藤知事候補」の名前を初めて聞いた。その場で「先々に期待ができる若い人がいい」と賛成した。
石川氏らが斎藤氏を擁立すると会見した後、党支部、谷後援会、石川後援会の3団体が丹波市内で会合を開き、石川氏の説明を聞いた。異論は出ず、斎藤支持で固まった。「われわれが金沢氏を推していたとして、若い人が立候補していたら金沢氏は負けていただろうことが、選挙結果からうかがえる。刷新を望む県民の声は強かった。斎藤氏は良い選択だった」とほほ笑む。
新生兵庫と袂を分かつことになったが、新生兵庫は、自民党傘下の団体でなく、県知事選以外の選挙は目立った活動をしていない。丹波市の自民党の党勢や、今秋の衆院選への影響はないと見ている。
個人的なつながりから金沢氏を応援したかったが、党の決定に従い斎藤氏を推した古参の自民党員は、自民党会派を割ったことと、金沢氏に各種団体推薦が出た後で石川氏が斎藤氏支持に回ったことなどの影響を懸念する。「会派を割るなんて、何でそこまで維新を怖がったのか。地元で支援者に説明もせず、独断。多くの人に不義理なことをした」と批判する。「知事選のわだかまりは、なしにはできないだろう。しかし、それを国政選挙に持ち込んではいけない。県知事は、斎藤氏だろうが、金沢氏だろうが大差はない。国政は違う」と、県知事選で生じた自民党支持層との亀裂を修復しようと気を引き締めている。
一方、敗れた丹波篠山市の党員は、憤まんやる方ない思いを隠さない。
「もう党の会費を払わんとこ、となっている。ふざけるなと思って」。丹波篠山市内の党員がぼやく。
県議の大多数が決めた党の候補、金沢氏を国会議員や党本部が斎藤氏に覆した。前述の党員は、「県連が金沢さん支持やったのに、国会議員や党本部が覆すなんて県民不在」と言い、「2つに割れてどっちかになったことで、余計に『自民党の中だけで知事を決めている』と思われる。そもそも自民党だけが政治をやっているんやない。自分もそうだし、県民も嫌になっているんと違うか」と憤る。
斎藤氏が維新の推薦も受けたことも複雑な感情を生んでいる。
選挙期間中、大臣級の自民党国会議員が斎藤氏の応援に来県したが、吉村洋文大阪府知事(維新)も駆けつけ、弁舌を振るった。
別の党員は、「自民党の議員より、吉村さんが来た時の方が人が集まった。斎藤さんは当選後、知事報酬カットなどを打ち出したが、あれは維新と同じ手法。自民ではなく、維新の知事という印象が強い」と話す。
また、「こうなった一番の原因は井戸さん。5期もやらずに4期で辞めて、金沢さんを立てていればこんなことにはならなかった。任期最終盤に高級公用車問題が取りざたされ、金沢さんに悪影響しかなかった」とする。
小さいとは言えないしこりを残したまま、秋には衆院選が控える。
丹波篠山市のある党員は、「国会議員が頭を下げない限り、今のままでは衆院選で動くつもりはない」と指摘。さらに、「党は斎藤さんのことを『若くて、将来性があって、勝てる候補』と言った。ならば、今いる国会議員はどうなのかと。自分で自分の首を絞めていることに気が付いていないのか」と厳しい目で見ている。
谷氏の後援会関係者は、「井戸前知事や金沢氏への禅譲に対する批判は多く、斎藤氏を支持する声が多かったが、丹波篠山市の党員からは風当たりが強かった。衆院選までに手打ちができないと活動がしづらい」とため息。分裂した自民会派は「とにかく県会でまとまり、一緒に頑張ろうという方向性になることを期待している」としている。