超希少疾病でも一人暮らし 見つけた存在理由 伝えたい「絶望だけじゃないよ」

2021.09.02
地域

超希少疾病「遠位型ミオパチー」を患いながらも、自立生活を送り、前向きに生きる竹川さん=2021年8月27日午前8時45分、兵庫県西宮市で

筋力が低下する病で、日本で300―400人ほどしか確認されていない超希少疾病の難病「遠位型ミオパチー」を患っている兵庫県丹波篠山市出身の竹川友恵さん(43)が、3年前から同県西宮市内で一人暮らしをしている。発症から数年で車いす生活になり、現在も病は進行しているが、一日の大半の時間に介助者が寄り添うことで「自由な生活」を実現。NPO法人のスタッフにもなり、障がいへの理解を広める活動に励んでいる。発症時の「絶望」から、今は、楽しい生活と障がいのある自分でないとできない仕事にたどり着き、「障がい者だからといって何もかも我慢しなければならないのではなく、いろんな人の助けを借りて自立の道があることを知ってほしい。『絶望だけじゃないよ』と伝えたい」と話している。

◇サポート受けて「自由」な生活

西宮市にあるマンションで生活する竹川さん。重度訪問介護の制度を活用し、1日22時間、交代で介助者が生活をサポートしてくれる。

常時、車いすを利用し、睡眠中は舌根が喉に落ちるため、呼吸器を使って眠る。自分では寝返りが打てないため、体が痛くなると介助者に動かしてもらう。それでも竹川さんは現在の生活を、「幸せ」と喜ぶ。

「前は自由にトイレに行けないので水を飲まないようにしたり、介助者がいないときに倒れると危ないからベッドに入っているようにしたり。でも今は助けを借りて、自分がしたい時にしたいことができる。コロナ禍になる前は、居酒屋さんに大好きなお酒を飲みに行くことだってできた。自由に、楽しく生活ができています」

◇「希望と絶望」 繰り返した末

遠位型ミオパチーは、筋疾患の一種で、手足の先から筋力が低下していく。有効な治療法は確立されておらず、近年まで指定難病にもなっていなかった。

竹川さんは経理の仕事をしていた26歳ごろから日に何度もつまずくようになった。当初は「運動不足」と言われていたが、精密検査を受けた結果、診断が下った。

結果が出てからの1年は、ほとんど記憶がない。近いうちに車いす生活になり、そして、将来は寝たきりになるという医師の言葉は心に大きなダメージを与え、感情がなくなったように思えたという。

筋力は少しずつ衰え、2013年秋から車いす生活に。勤めていた会社も辞めた。「そのうち病院か施設で天井だけ見て過ごす生活になると思うと、本当に絶望的でした」

それでも患者らでつくる「遠位型ミオパチー患者会・PADM」に参加し、指定難病への登録に奔走する。

活動が実を結び、指定難病となったことで本格的な研究が始まったものの、今も有効な治療法は確立されておらず、新薬ができるかもしれないという話題に喜び、駄目だったと知って泣き崩れる生活だった。

両親とは死別しており、一人で家にこもって希望と絶望を繰り返す中、「このままの生活は嫌だ」と強く思うように。インターネット検索で「障がい者・人生・住みやすいまち」などの言葉を調べるうち、同じ県内の西宮市にあるNPO法人「メインストリーム協会」の存在を知る。

◇考え方に感動 協会スタッフに

同協会は、障がい者自身が運営する「自立生活センター」の一つ。重い障がいがあっても地域で自立した生活をする、あるいはしようとする人々をサポートしている。

「自立」という言葉に引かれた竹川さんは協会に相談。さまざまな制度の説明を受け、支援を受けながら念願の一人暮らしを実現した。西宮に移住したのは理由がある。重度訪問介護は制度として存在するものの、地方など事業者が少ない地域では利用できないことが多いからだ。

それでも、「一人暮らしを始めてすぐのころは、コンビニで好きな商品を買えるだけでうれしかったという人もいる。私も同じ気持ちです」と振り返る。

しばらくは生活を送りながら、協会の活動を見つめ続けた。その中で協会の考え方を「すごい」と感じるようになった。

「制度の紹介や権利擁護、啓発など、いろんな事業をされているけれど、何より感じたのは、『障がいがある人しかできない仕事がある』ということ。私は途中から障がい者になったので、できていたことができなくなると仕事を辞めることになるし、その仕事も私じゃなくても違う人ができる。だから、自分が生きている意味がないと考えるようになっていた。でも、協会の仕事は私たちにしかできない。存在理由を見つけた、と思いました」

昨年、晴れて協会の一員となり、福祉関係に興味がある学生のインターンを担当している。忙しく働きながら、働く喜びを感じながらの生活だ。

◇自立生活できる 選択肢の一つに

幸せを感じているからこそ、もっと広く伝えたいと思う。「自立生活ができるなんて、自分で調べないと分からなかった。病院や学校の先生にもあまり知られていないかもしれない。協会の事業で入院している筋ジストロフィーの方と話している時も、『病院を出たら生きていけない』『あなたにはできない』と言われて、何もできないと思い込んでいる人がいる。選択肢の一つとして、自立生活もあるということを知ってほしい」と話す。

また、「障がい者は家族だけがみないといけないというのも違う。親には親、子には子の人生がある。閉鎖的な考えになりがちだけれど、地域の一人として普通に暮らしていける社会になるようにいろんな活動をしていきたい」と笑顔で前を向いている。

◆メインストリーム協会が運営に協力する「筋ジス患者の自立生活セミナー」が9月5日午後1時半から4時50分、オンラインで開催される。主催は「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」。筋ジスの主人公を描くノンフィクション「こんな夜更けにバナナかよ」の著者、渡辺一史さんの講演や全国の自立生活当事者6人によるトークセッションなどがある。無料。問い合わせは、自立生活センターとくしま。

関連記事