兵庫県丹波篠山市の寺戸英二さん(32)が、島根県西部・石見地方を代表する伝統芸能「石見神楽」を地域で披露する団体「篠山神楽社中」を立ち上げ、熱のこもった練習に励んでいる。激しい舞とはやし、きらびやかな衣装など、演芸性が高く、一般の神楽とは一線を画した石見神楽。一緒に神楽を楽しむ仲間や公演先を募集している寺戸さんは、「舞う人と、はやしの音が『ばちっ』と合わさったときの気持ち良さが魅力。石見神楽を丹波篠山の一つの目玉にしていきたい。興味がある人はぜひご一緒に」と呼び掛けている。
うねる大蛇、振り下ろされる剣、激しくなっていくはやしの音―。丹波篠山市民センターでこのほど、同社中の公開練習があり、「大蛇」が披露された。日本神話のスサノオノミコトとヤマタノオロチの激戦を描いた迫力満点の神楽に、子どもは、「かっこいい」と声を上げ、大人たちは、食い入るように見入った。
神話などを題材にした石見神楽は、太鼓や笛、手拍子などの軽快なはやしと、金糸・銀糸を織り込んだ豪華絢爛な衣装と表情豊かな面を身に着けた激しい舞が特徴。演目によっては早変わりや煙幕が使用されるなど、エンターテイメント性が高い。
もともと石見地方の秋祭りで披露されてきたが、現在は年間を通して演じられており、受け継ぐ団体は130を超えるほど地域の文化として根付いている。
大阪府出身の寺戸さん。祖父母の実家が石見地方で、幼い頃に神楽を見て、「すごくかっこいい」と衝撃を受けたという。
設計技術者として働いていた時、大阪にあった石見神楽の劇団の公演を見たことで幼い頃の記憶がよみがえった。「それまで人生の目的が持てなかったけれど、改めて神楽を見た時、『景色に色が付いた』と思うくらい感動した。それほど他では味わえないものがあった」
劇団に入り、団員として公演を重ねてきたものの、コロナ禍もあって思うような活動ができなくなった。
そんな折、縁あって丹波篠山に移住し、「新たな土地で一から自分の力で社中を立ち上げよう」と思い立った。昨年8月から活動を始め、現在、地元住民も含めたメンバー8人で練習に励んでいる。コロナ禍が落ち着けば、地域で公演することが当面の目標だ。
寺戸さんは、「石見神楽を丹波篠山に根付かせ、神社の境内など市内各地の祭りに呼んでもらえるようになりたい」と言い、「自分がそうだったように、子どもたちに『かっこいい』と思ってもらえたら。題材が神話なので、歴史の勉強にもなる」とほほ笑む。
移住したまちの印象は、「移住者を大事にしてくれて、とても温かいまち。丹波篠山に来てよかった」と話す。