がくごと桜散る? 「犯人」はスズメ 蜜狙ってちぎる 密かなかわいい”犯行”

2022.04.10
地域自然

桜の花をがくごとちぎり、口にくわえるスズメ=兵庫県丹波篠山市黒岡で

兵庫県丹波篠山市内では桜が見頃を迎え、春らんまんの景色を見せてくれている。陽気に誘われ、カメラを手に桜の下を通りかかった時、頭上から花が降ってきた。花びらではなく、がくが付いたまま丸ごと。辺りを見渡すと同じ状態の花が散乱している。「はて?」と思い、木にレンズを向けてみると、“犯人”の姿を捉えた。茶色い頭と背中に、白い腹。スズメだ。いったい何をしているのか。そもそもスズメって桜を食べたっけ―?

謎の行動が見られた桜は、市立たまみず幼稚園の園庭の隅にたたずむソメイヨシノ。しばらくスズメの行動を観察していると、桜の花をついばんではちぎり、しばらく口にくわえ、すぐに落とすことを繰り返していた。

また、市内の桜を見回ってみると、一部で同じ状態の花が落ちているのを見つけた。

丹波野鳥の会会長の梅津節雄さん(68)によると、スズメの目当ては桜の蜜。がくごと食いちぎって付け根にある蜜だまりをくちばしでつぶしてなめているという。野鳥や樹木関係者の間では知られた話のようで、かつては注意してみないと見つからなかったが、近年、この行動を取るスズメが増えているそうで、スズメたちの間では”ブーム”になりつつあるのかもしれない。

スズメに落とされた花

桜の吸蜜で知られるヒヨドリやメジロは、細く、とがったくちばしを花に差し込んで蜜をなめる。しかし、スズメはくちばしが太く、短いため、同じ方法では吸蜜できず、がくごとちぎる行動に出ている。

また、ヒヨドリのように花粉をくちばしにつけて受粉を媒介するわけでもないため、桜にとってはただ蜜をなめられるだけという意味で「盗蜜」と呼ばれるそう。

梅津さんは、「同様のことは、ペットとして飼われているインコが逃げだした際も確認されている。また、『ウソ』という鳥は、桜の花芽が好物。集団でやって来て、ごっそり食べてしまうので、その年の花見に影響するほど」と話す。

園庭の桜の下にはかなりの数の花が落ちているが、桜に影響はないのか。桜守の吉良勉さん(66)に尋ねると、「桜は何千、何万という花をつける。スズメが落とすくらい全然影響はない」と笑い、「桜の受粉は多くがハナアブやミツバチなどの虫媒介で、鳥が媒介するのは寒緋桜や大島桜など限られた品種」と話す。また、葉があれば光合成はできるため、成長に影響はなく、「影響があるのは人が見たときの印象くらい」という。

たまたま撮影していた昨年同時期の桜と比べると、かなりボリュームが落ちている印象を受けた。ウソがやってきていたのか、風で枝が折れたのか。はたまたスズメが蜜の味にはまり、大量に落としたのか―。同園前園長の藤本健さんに聞くと、昨年、張り出していた枝を剪定したとのこと。吉良さんの言うようにスズメの影響は少ないようだ。危うくスズメに冤罪をかけるところだった。

同園では、昨年の秋か冬頃から木の近くにある生垣の中に、たくさんのスズメが出入りするようになったそう。どうやら生垣を隠れ家にしており、最寄りの桜で安心して蜜を楽しんでいるようだ。

園の教諭らにスズメが花をちぎっている画像を見せると、「スズメってこんなことするんですか」と驚き、「かわいい」と目を細めつつも「12日の入園式までに全部落とされたらどうしよう」と苦笑する。

園庭で密かに起きていた“事件”。荒木美景園長は、「子どもたちが気付いたら、『スズメさんにはスズメさんの生活がある』と教えようと思う。身近で生き物を学ぶ機会にもなりますね」とほほ笑んでいた。

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