兵庫県丹波篠山市本郷に、フラメンコダンサーの奥濵春彦さん(49)が管理人を務める一棟貸しのロッジ「丹波篠山 星の森」がオープンした。施設内には舞台になるスペースやピアノがあり、楽器演奏やダンス、芝居などの稽古合宿に最適。オプションで奥濵さんによるフラメンコレッスンもある。奥濵さんは、「いろんなアーティストが集い、それぞれのアート(芸術)を楽しんでほしいし、一般の方もアートに触れられるような場になれば」と言い、「若い人にも利用してもらい、丹波篠山での暮らしを考える機会にしてほしい」と笑顔で話している。
施設は同県神戸市垂水区の「フィガロ株式会社」(田口方子社長)が運営。役員でもある奥濵さんが管理する。素泊まりは1泊1人5000円(2人から)。朝食、夕食付きプランもあり、夕食はバーベキューや鍋物を提供する。舞台を使う場合は、1人3000円。奥濵さんのフラメンコレッスンは1時間8000円で、初心者、経験者問わず対応する。設置するピアノはスタインウェイの名機「D274」。田口社長の親族のピアニストが使用していたもので、使用時間に応じて値段が変わる。
施設のすぐ近くに移り住んだ奥濵さんは、山口県出身。東京藝術大学在学中にサークルでフラメンコに出合い、「全身を使って自分を表現するアート。体に電気が走った」と思うほど衝撃を受けた。すぐにのめり込み、3カ月後には本場のスペインに短期留学。1999年には文化庁芸術家在外派遣研修員としてスペインに留学し、数々の舞台を踏んだ。
帰国後、フラメンコの普及のため、東京にスタジオを開設。日本のフラメンコダンサーの第一人者、小松原庸子さんの舞踊団にも招かれ、全国、世界のツアーに回った。しかし、リハーサル中にアキレス腱を断裂。自身が求める動きができなくなったことなどから一線は退いた。
その後、学んできたフラメンコを生かそうと、高齢者施設などでボランティアとしてショーを行うことを思いつき、まずは施設がどのようなものかを知るために東京でグループホームのスタッフに。「介護の世界は全く経験がなかったけれど、自分にはとても合っていた」と言い、神戸市に移住してからも老人保健施設に勤務した。介護に励み、充実感を得ながらも、やはり踊りやアートを生かし、人々が集う場をつくりたいと考えるようになった。
山梨県で開かれた音楽祭で意気投合した友人で、全国でも珍しいクラシックギターの弦製造を行っているフィガロの製造部長・薮鈴太郎さん(37)や田口社長も奥濵さんの考えに賛同。県内の物件を探す中、丹波篠山でカフェや宿泊施設として使われていたロッジを見つけて一目で気に入り、移住した。アーティストの合宿のほか、一般の利用もあり、自然に囲まれたロッジに宿泊し、「気分がリフレッシュした」と言う人や、リピート予約をしていく人もあったという。
「星の森という名前は、それぞれが持つ個性、スターを生かし、それが集まってくるような場所という思いを込めた」と話す奥濵さん。「ゆくゆくは空いている時間にミニコンサートなどができれば。まずは地域の皆さんと仲良くさせてもらいたい」とほほ笑んでいる。