日本六古窯の一つとして名高い丹波焼の窯元「稲右衛門窯(いなえもんがま)」が、兵庫県丹波篠山市今田町下立杭でカフェ「INAEMON pottery studio&cafe」をオープンした。280年の歴史を誇る同窯の11代目・上中剛司さん(40)の祖父、重市さんと父の啓司さんが作陶に励んだ元作業場を改修。かつて使われていたレンガ窯を中心に据え、窯元の歴史を感じながら、コーヒーや、特産を使ったオリジナル和菓子などが味わえる。上中さんは「窯元巡りの中で居心地の良い時間を過ごせて、『モノ』から『コト』を楽しめる空間にしたい」と話す。
白を基調にし、モダンで上品な雰囲気が漂う店内。広さ約60平方㍍で、12席の大きなテーブルと、4席の細長いテーブルがある。床板や窓の建具、棚板、配管など改修前から残る基礎部分も生かし、窓からは日が差し込み、風も感じられる。乾燥や焼成が重要な陶芸に通じる「半屋外空間」(上中さん)に仕上げた。
30年ほど前まで使っていたレンガ窯(4×4㍍、高さ3㍍ほど)をカフェの象徴として配置。窯の中を和風に装飾し、かつて使用していた「サヤ」と呼ばれる耐火容器の上に、上中さんの花入れ作品を展示している。カウンターの棚には、型取りの際に使っていた「石膏型」をずらりと並べている。
提供する和菓子は、栗の渋皮煮(税抜き350円)や山の芋を使った氷餅「白菊」(同)など、同市北新町の老舗和菓子店「大福堂」が考案したオリジナルメニュー4種類を用意。ドリンク類はコーヒーや抹茶など4種類があり、テイクアウトも可能。店内メニューは、カラフルな色合いが特徴の稲右衛門窯の皿にのせて提供する。
陶芸体験のほか、木工やガラスなど他分野の作家とコラボした展覧会など、多彩な「コト」体験企画を考えている。
カフェ開業のきっかけは新型コロナウイルス禍だ。感染拡大の影響から、作品を販売する同窯のショップや、丹波伝統工芸公園「立杭陶の郷」(同市今田町上立杭)、都市部の百貨店などが休業を余儀なくされた。客足は途絶え、取引先も少なくなった。
しかし、上中さんにとっては、この窮地ともいえる状況が「事業のこれからを考えるきっかけになった」。2018年ごろからアイデアを温めていた、元作業場を改修したカフェの開業へ一念発起。国の事業再構築補助金を活用し、今春から改修に乗り出した。
上中さんは「時代の変化に伴い、近年は『モノ』消費から『コト』消費へとニーズが変化している。産地でもニーズの変化に焦点を当てたサービス展開が必要。『モノ』である陶器を製造し、売るだけでなく、顧客が窯元路地歩きの最中に安らげるカフェスペースを創出し、体験などの『コト』を消費できる形態を目指したい」と語る。
不定休。金―日曜日は必ず営業。営業時間は午前11時―午後5時。営業日などの最新情報を稲右衛門窯のインスタグラムで発信している。