創意工夫を凝らし、社会福祉現場の第一線で活躍する若手職員を全国から表彰する「社会福祉ヒーローズ」のファイナリストに、兵庫県丹波篠山市福住の介護老人福祉施設「やまゆりの里」に勤める介護福祉士、稲葉夏輝さん(35)=京都府亀岡市=が選ばれた。同施設の交流サイト(SNS)を担当し、施設の日常を発信。インスタグラムは約2万人、ティックトックは約1・5万人と、業界随一のフォロワー数を誇る。「介護業界の『きつい』『汚い』という大変そうなイメージを、SNSを使って一掃させたい」と力を込める。28日午後1時から東京都内で開かれるファイナリスト6人によるプレゼン大会に出場する。
入居者全員に催す誕生日会や、料理体験、施設近くの畑での野菜収穫といった、月に20日程度行う多彩なレクリエーションの様子を中心に、写真や動画を毎日公開。床から椅子への移乗など、介助の専門技術も紹介している。
2018年、人材を呼び込みたい若い世代に向けた施設のPRにと、インスタグラムの投稿を始めた。入居者の豊かな表情や、入居者の願いに応える職員の前向きな取り組みが反響を呼び、みるみるフォロワーが増加。ティックトックは昨年に始め、フォロワー数はわずか1年で1万人を超えた。
稲葉さんら職員が共通して抱くのは「入居者の願いをかなえ、笑顔に」という思い。職員の柔軟な発想や行動力から、入居者の笑顔や生きがいにつなげる多彩なレクリエーションを実現させている。
例えば、「お酒が好き」という入居者がいれば、酒やつまみを提供する「居酒屋」を企画。「片道45分離れた場所にある母の墓参りに行きたい」という入居者がいれば、ドライブで車の揺れに慣れてもらった後に、付き添って行くようにする。念願がかなった入居者の反応もSNSで発信し、感動を呼んでいる。
稲葉さんによると、「入居者の方に楽しんでもらうため、まずは職員自身が楽しむこと」を重要視しているという。
SNSをきっかけに同施設の知名度が上がり、就職希望者も増加。人手不足の傾向が顕著な業界の中で、青森や東京、福岡など各地から約4年で20人以上を採用した。
「願いがかなうことで、日々のモチベーションになり、普段の生活に近づく。すると、洗い物を率先してやってくれたり、畑を気に掛けたりしてくれる人が出てくる。そうした様子をSNSで発信するとファンが増え、職員も増えて、より多くの取り組みができるようになる。好循環が生まれている」とほほ笑む。
ファイナリストに選ばれ、「職員みんなの協力やアイデアがあってこそ」と感謝する。コンテストに向け、「優勝できたらラッキーぐらいの気持ち」と気負うことはない。「クリエイティブで、笑顔を増やせる介護の仕事を、『なりたい職業ナンバーワン』にしたい」と熱い思いを抱いている。
◆社会福祉ヒーローズ◆ 福祉の魅力発信を目的に、全国社会福祉法人経営者協議会が「社会福祉版の甲子園」として2018年に創設した賞。社会福祉分野に従事する20―30歳代が対象。5年目を迎える今年は全国から68人の応募があった。社会福祉の魅力を伝えたいという熱い思いや、現場での経験、実績などを基準に、書類や面談での選考を経て、6人のファイナリストを選出した。最優秀の「ベストヒーロー賞」を決めるプレゼン大会の模様はユーチューブで生配信される。