兵庫県丹波篠山市東吹にある宿泊施設「丹波篠山ロッヂS・P・H」の稲山圭吾さん(68)が、特産の丹波黒大豆を使った自家製の黒豆みそのインスタントみそ汁「丹波篠山 黒豆みそ汁」の販売を始めた。宿の“名物”の一つとして、宿泊客の朝食に提供している黒豆みそ汁を自宅でも味わってもらおうと開発した。コロナ禍で宿泊客が激減する中、「変わっていく時代に対応しないと」と試行錯誤。「ワカメやだし以外は、黒豆はもちろん、野菜も100%丹波篠山産。ぜひ味わってもらいたい」とほほ笑んでいる。
カボチャ、サツマイモ、シイタケ、黒豆豆腐、ナスの5種類。20年以上にわたって自ら仕込んだ黒豆みそを使ったみそ汁の味を目指して開発に着手し、みそは乾燥させて粉末に、野菜はフリーズドライが施してあり、湯を入れるだけで楽しめる。稲山さんが作った野菜を使い、無添加の調味料を使うなど、こだわりもたっぷり詰め込んだ。
目に良いとされる成分「アントシアニン」を豊富に含む黒豆の皮ごと使う黒豆みそは芳醇なこくが特長で、だしとの比率を「何度も飲んでは実験を繰り返して」整え、野菜は触感が楽しめるよう、大き目にしている。
「丹波篠山のみそ汁は黒豆みそじゃないと」と、製造方法を学び、甕で仕込んできた。宿泊客からも好評で、「おいしい」「分けてほしい」などの声に応え、みそ製造業の許可が得られたことから販売も開始。通常の黒豆みその他にも、おでんやコンニャクに載せて楽しむ、くるみ、山椒、ゆずの3種も展開している。
学生時代は陸上選手だった稲山さんは1989年、陸上選手の合宿場として施設をオープン。毎年、さまざまな学校の選手たちが利用しており、関西圏の陸上関係では知られた宿だ。後にオリンピック選手になった人も多く、金メダリストの野口みずきさんも訪れている。また、グループや家族連れなども訪れ、山々に囲まれた環境で丹波篠山旅を味わう拠点となっていた。
しかし、コロナ禍の直撃で、合宿やグループの宿泊がなくなり、コロナ前と比べて利用者は、「半分以下どころではない」状況になった。そんな中、商品開発の補助金があることを知った。「巣ごもり」「おうち時間」という言葉が飛び交った頃。「うちのみそ汁を自宅で味わってもらいたい」と一念発起し、インスタント化に乗り出した。
数多くの壁にぶつかりながらも、野菜はフリーズドライができる石川県の事業者に、みそは乾燥・粉砕ができる知人にと、周囲の協力を得た。稲山さんは、「宿で出しているみそ汁には勝てないけれど、なんとか近づけることができた」と言い、「賞味期限が長いので、自宅に置いておいてもらったり、災害時の備蓄としても使ってもらったりできるのでは」と期待する。
コロナ禍は収束しつつあるが、「急激に時代が変わり、前のような状況に戻るとは思えない」と不安を口にしつつ、大好きな陸上を引き合いに、「マラソンシューズは今、昔のぺったんこから厚底に変わった。厚底になったことで使う筋肉が変わり、トレーニングも変わってきている。私たちも状況の変化に対応できるようにならないと」と語り、「自分にはみそという武器がある。みそ汁がうまくいけば、今後はドレッシングや肉用のみその開発にも取り組んでみたい」と意欲を燃やしている。
みそ汁は5個入り1600円。「大量生産はできず、食材にもこだわったので高くなってしまった」とのこと。施設のホームページや、特産館ささやまなどで販売している。