日本酒「マスター」取得 カナダ人男性が老舗酒蔵で住み込み研修 「素晴らしさ世界に」

2023.07.17
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かい棒を使い、発酵タンク内のもろみを混ぜるカールさん=兵庫県丹波市市島町中竹田で

カナダ人のカール・カルヴェルトさん(49)が、1849年創業の老舗酒蔵、西山酒造場(兵庫県丹波市市島町中竹田)で5―6月の約2カ月間の酒造り研修を終えた証しとしての称号で、国際最高資格「マスター・オブ・酒」を世界で初めて取得した。同酒蔵の社員寮に住み込み、日本や地域の文化、杜氏、蔵人の情熱に触れながら、細部にまで気を配る酒造りの極意を学んだ。カールさんは「日本酒の素晴らしさを世界に広げていきたい」と笑顔を見せた。

同研修は、世界に向けて日本酒の教育、普及活動を手がける「酒ソムリエ協会」(本部=英・ロンドン)の主催で、初めて行われた。2カ月間、見習いとして、洗米や製麹、酒母、もろみの仕込みや管理などの技術を学ぶ。

同酒蔵は、同協会の酒造り講座で、ヨーロッパなど世界中から生徒を受け入れてきた縁もあり、研修先に選ばれた。

酒蔵に眠る時間はない。カールさんは、深夜や早朝の時間帯でも、杜氏と共にこうじをまぜる作業や米洗いに励んだ。掃除も丁寧に行い、常に蔵内をきれいに保つ大切さを学んだ。

杜氏兼品質管理課リーダーの八島公玲さん(51)は「頭の回転と覚えるのが早い。気になったことがあればすぐに『なぜ』と質問していた」と話し、向上心が強い姿勢は社員の刺激にもなったという。

毎朝のラジオ体操は、「カナダに帰っても毎日したい」。社員と共に杯を交わす日もあった。同酒蔵の社員食堂では、市島地域で栽培が盛んな有機野菜が提供され、地域に根付く食文化にも感銘を受けた。

修了書を受け取ったカールさんと、西山酒造場の西山周三社長(右)、八島さん

社員のチームワークの良さにも驚いたという。「誰も不満を言わず、一つの目標に向かって酒造りに取り組む。これをカナダでやろうとしても、誰かが不平不満を言う。酒造りに懸ける一人ひとりのパッションを目の当たりにした」と話した。

投資家として活躍するカールさん。日本で会社を立ち上げたこともあり、元々日本の文化には関心が高かった。父はビールの醸造家。日本酒造りは、父から「インポッシブル(不可能)」と言われ、興味が湧いた。同協会の酒ソムリエ講座も受講した。

今後、ポルトガルで日本酒レストランを開こうと考えており、知識や実体験を積み、学びを深めたいと、最高資格が得られる研修を受講した。

同酒蔵で修了式があり、修了書と認定バッジを受け取った。カールさんは「人生の中で最高の素晴らしい体験ができた」と充実感をにじませ、「来年また西山酒造場に戻ってきて、酒を酌み交わしながら、皆さんと思い出などを語り合いたい」と、新しくできた「トモダチ」との再会を誓っていた。

 

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