兵庫県丹波市はこのほど、難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者、笹倉克敏さん(46)を災害時に安全な場所に避難させる「個別避難計画」を作成するための訓練を行った。笹倉さんの家族、地元自治会、医師、ヘルパー、行政や福祉関係者ら約40人が参加。笹倉さん宅から住民センターへ避難する一連の動きを確認した。今後、訓練参加者の意見をとりまとめて同計画を策定する。市が計画に基づく訓練を行うのは初めて。これをモデルケースに難病患者や重度障がい者、寝たきりのお年寄りなど自力で避難できない人を対象にした同計画作りを進める考えで、「誰ひとり取り残さない」防災を目指す。
笹倉さんは全身の筋肉が落ち、常時、人工呼吸器などの医療機器や体温調節のためのエアコン、コミュニケーションを取るためのパソコンなどが欠かせない。このため、訓練は災害などによる停電を想定した。笹倉さん宅のそばには岩屋谷川が流れる。
浸水の危険性があり、停電の早期復旧が見込めないため、家族が避難を決断したという想定。災害時に笹倉さんのそばにいられる家族や自治会役員を中心に、医療機器のコンセントを外してバッテリーで稼働させ、笹倉さんをベッドからストレッチャーに移して移送車両へ運んだ。
避難先の住民センターでは市職員らが受け入れ準備を整え、簡易ベッドなどを用意。笹倉さんをストレッチャーから簡易ベッドへ移し、医療機器などを設定し直すまでの一連の流れを確認した。
今回の訓練のシナリオをもとに、参加者がそれぞれの役割を、主語を明確にしながら声に出して振り返った。また、「有事の際、誰が指示をするのかが重要で、家族などキーパーソンは指示ができるようにイメージしておくことが大切では」といった意見も出た。
参加した自治会の篠倉和之会長(69)は、「初めてのことで、車両まで運ぶのにも時間がかかった。自治会内には他にも支援を要する人はおり、実際の場合に自治会としてどこまでできるか改めて整理し、話し合いたい」と話していた。
笹倉さんの妻、涼子さん(43)は、「準備はしていたつもりだったが、いざとなるとバタバタした。実際の時はパニックになりそう。普段からのイメージトレーニングが必要」と振り返った。
コロナ禍もあり、外出するのは3年ぶりという笹倉さんは丹波新聞の取材に、「意外と安全に避難できた。(暑さは)外に出たのは一瞬だったので、たいしたことはなかった」とパソコンに打ち込んだ。
2021年、国が災害対策基本法を改正し、避難行動要支援者の「個別避難計画の作成」を自治体の努力義務と位置付けたのを受け、同市は重度の難病患者や障がい者、要介護者で、かつ浸水や土砂災害の危険性が高い地域に住む人の個別支援計画は、「市が主導で作成する」方針を固めた。
そんな中、笹倉さんが、災害が起きたときの不安から、ケアマネジャーを通じて市に同計画に基づく訓練の必要性を申し出たのを受け、ケアマネジャーや県健康福祉事務所の後押しもあり、関係者が昨年から実施に向けて協議を続けていた。