兵庫県丹波篠山市今田町下立杭で、フランス料理「ガレット」の専門店「SAKURAI」を営む櫻井龍弥さん(47)がこのほど、フランスで行われた「全国ガレットコンクール」で部門準優勝、総合3位という日本人初の快挙を成し遂げた。例えるなら「大阪で開かれたお好み焼きコンクールで外国人が表彰台に立った」ような偉業という。コロナ禍で以前勤めた店が閉店し、一時はどん底を味わいつつも、新天地の丹波篠山でガレットの普及に努める櫻井さんは、「(表彰には)人生で一番驚いたけれど、素直にうれしい。今後もきちっとしたガレットを出せるように腕を磨きたい」と喜んでいる。
フランス発祥のガレットは、そば粉の生地を薄く焼き、その上にさまざまな具材をトッピングする郷土料理。同国では多くの専門店や屋台があり、家庭でも食べられるソウルフードだ。
本場のブルターニュ地方で開かれた同コンクールは、ガレット関係者でつくる「ピプリアック・ラ・ガレット同胞団」が主催し、国中から腕利きのプロが集まる。櫻井さんは日本の知人が出場したことからコンクールを知り、現地の友人に協力してもらい、今年、初出場をかなえた。
課題は15分以内に6枚の生地を焼き、見た目や均一性、厚さ、焼き加減、香りと味が審査された。具はのせないため、そば粉と水と塩のみを使って仕込む生地とシェフの腕が競われるシンプルかつシビアな戦い。
日本のそば粉を使いたかったが、出場経験のある知人から、日本では味わいにもなる「苦み」がフランスでは否定的に受け取られる、とアドバイスを受けた。試行錯誤を繰り返し、北海道産とフランス産のそば粉を配合して苦みを消しつつ、より香りを引き立たせることに注力した。
周りはフランス人ばかりで、観衆からは「鉄板の温度が低いのでは?」といった声も飛んだが、ふたを開ければ店舗を持つシェフの部門で準優勝、屋台も含めた総合でも3位に輝き、観衆から拍手と「よくやった」という歓声が沸いたという。
神戸の一流ホテルでフランス料理の経験を積み、元町にあったレストランでは料理長を任されたが、コロナ禍の影響で閉店に追い込まれた。それを機に「田舎で自分の店を持ちたい」という夢をかなえるため理想の地を探し、丹波篠山にたどり着いた。
ガレットとの出合いはフランス旅行。おいしさに驚きつつ、「この食感と風味、お好み焼きのような薄焼き。日本ではあまり見ないけれど、きっと日本人は好きなはず」と、魅力と可能性を感じ、専門店を開いた。
開業から2年が過ぎ、今では多くの人でにぎわう人気店に。「一時は料理人を諦めようかとも思ったし、丹波篠山での開業が人生最後のチャンスとも思った。ジェットコースターのようで、人生、何があるか分からない」と苦笑する。
丹波篠山では地元の農産物を使い、器は丹波焼をそろえる。「料理人にとって理想で、すごく可能性を秘めた場所だと、毎日思う。都市部からも近く、フランスにあるような、『わざわざ行くお店』になりたい」とにっこり。日本でガレットの認知度を高めることが大きな目標で、「これからコンクールに出るというような人の力にもなりたい。いつか、パリでどこまで通用するか、屋台でも出すことが夢」とほほ笑んだ。