「陶泊」今春スタートへ 丹波焼の里で陶工がガイド 観光+里の一員に

2024.02.05
地域観光

ガイドの指導のもとで、作陶体験を楽しむ参加者ら=兵庫県丹波篠山市今田町上立杭で

日本六古窯の一つで800年の歴史を誇る丹波焼の里、兵庫県丹波篠山市今田町立杭地区で今春、窯元の工房に宿泊、滞在し、里の魅力をより深く味わう新たな観光事業「陶泊」が本格的にスタートする。工房に宿泊し、陶工が「さとびとガイド」(案内人)になって窯元巡りなどに同行。時には参加者が陶工の仕事を手伝うなど、作陶体験のみのような従来のスタイルとは一線を画しており、観光客でありつつ、まるで里の一員になったような体験を提供する。焼き物の里の新たな挑戦が始まる。

「すっごく楽しい」「滅多にない機会」―。このほど行われたモニターツアー。参加した女性2人が声を合わせ、「陶泊」の魅力を味わった。

陶泊事業は丹波立杭陶磁器協同組合が主体となって実施。モニターツアーは連携する「ひょうご観光本部」が参加者を募り、多数の応募の中から青森県の女性2人が当選した。

窯元の工房を見学し、普段は聞けない苦労話も

ガイドは陶工の清水辰弥さん(30、炎丹久窯)と、市野翔太さん(33、陶幸窯)が担当。到着した2人を立杭陶の郷内の窯元横丁に案内し、工房では作陶体験を指導した。2人はろくろで器を作り、土の感触を感じながら、指先から生み出す陶芸を楽しんだ。

続いて信凜窯を訪問し、仲岡信人さん(46)の作品や工房を見学。釉薬の説明もあり、化学反応によって色合いなどが千変万化することを知り、「まるで理科の授業」と目を丸くしていた。

ギャラリーには並ぶことのない素焼き段階のものや〝失敗作〟も目の当たりに。打ち解けてくると会話が弾み、「窯があるので暑くないですか?」「暑さよりも水が冷たい方がきつい。心まで冷やされる」「一人前になるまではどれくらいかかる?」「作るだけなら数年。でも『この作品はあの人のもの』などと、オリジナリティーを出すにはもっと時間がかかる」などと陶工との触れ合いを楽しんだ。

宿泊は昇陽窯で。ギャラリーや工房が入る建物の2階を宿泊場所にリフォームしており、陶工の手仕事が感じられる空間で過ごし、食事を共に囲んだり、日常の仕事の手伝いもしたりした。

宿泊場所としてリフォームした昇陽窯の一室と大上さん

1泊2日で丹波焼の里を堪能した女性らは、「陶芸をしたいと思って応募した。空気も、山の景色もきれい。陶芸は難しいけれど、とても楽しかった。地元でも陶芸体験に出かけたくなった」と笑顔を浮かべ、「少しびびっていたけれど、若い陶工の方に案内していただけて良かった。陶泊はおすすめ」と太鼓判を押した。

宿泊場所として名乗りを上げた昇陽窯の大上裕樹さん(37)と妻の彩子さん(42)は、「(消費動向が)『モノ』(商品やサービス)から『コト』(体験や経験)へ、と言われる中で、陶器を作っている雰囲気、人、工房に流れているラジオなども含めて丹波焼の背景を知って、見て、感じてもらえる」と言い、「丹波焼の未来につながる。これから『来る』と確信しているし、備前や信楽など他の焼き物産地でも始まれば、『うちが最初』と胸を張れる」とほほ笑んでいる。

丹波焼のギャラリーからの風景を楽しむ参加者

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