2019年12月、中国・武漢で確認され、またたく間に世界中で大流行した新型コロナウイルス感染症。繰り返される大きな感染の波、「緊急事態宣言」などを経て、昨年5月に感染症法上の位置づけが「2類」から「5類」に変更され、季節性インフルエンザなどと同じ扱いになった。5類移行から1年が過ぎた今、兵庫県丹波市においてコロナで変わったこと、変わらなかったこと、元に戻ったことを検証する。
症状の重さ、感染経路、予後―。恐怖心をかきたてた新型コロナウイルス禍は、日常では考えられないほどに人々の心をも変えた。ぶつけどころのない不安は、感染した人やその家族、治療の最前線にいる医療従事者、市民のワクチン接種体制を整えるため深夜まで身を粉にして働く丹波市職員らに対し、鋭い言葉になって表れたことがあった。
2021年に家族でり患した30歳代男性は、陰性が確認されて2カ月以上が経過した頃、子どもの卒業式を控えていた。友人から「『感染したのに卒業式に来るんやろか』と言っている人がいたよ」と聞き、悲しい思いをしたという。
一方で、人の優しさに触れた出来事もあったという。依頼していないのに、外出できない身を心配し、食料を届けてくれた友人がおり、「うわべだけではない、いつもと変わらない友情を感じた」。
同年夏に感染した40歳代男性は、すぐに会社に報告したものの、「周囲には言えなかった。感染することは悪いという雰囲気だった」と振り返る。
感染症法上の5類に移行して1年以上がたった今、コロナにかかった人に対する周囲の反応の変化を感じている。「仮に感染しても『コロナにかかってたんや』『大変やったなあ』とやり取りできる雰囲気がある。それだけ理解が進んだんだろう。そこが当時と今で変わった部分かな」と語る。
コロナ禍で取り上げる内容を巡り、丹波新聞社に怒りの声が寄せられた。不要不急の外出自粛が呼びかけられていた時期、満開の花の写真や、コロナ禍の終息を願って行われた行事を掲載すると、「花を見に行く人が増える。感染が広がったらどうするんだ」「なぜ人が集まるイベントを取り上げるのか」などの電話があった。
一方で、心温まる記事もあふれた。中学校の後輩の学びを止めないためにICT端末などを寄贈した卒業生、生活困窮者に支援物資を届けた男性、奮闘する医療従事者に感謝の手紙を届けた子どもたち、児童のために学校で消毒作業を続けた住民など、数を挙げればきりがないほど。社会が危機的な状況に陥ったときでも、周囲を思いやる市民の優しさが変わらなかったことは、これまでの紙面が物語っている。
丹波市人権啓発センターによると、人が集まることが避けられる中、各自治会が実施する人権学習会も激減。それでも、コロナの感染が拡大していた20年度には、市内299自治会(当時)のうち170自治会が学習会を開き、コロナにまつわる人権課題を取り上げた自治会もあったという。未知のウイルスへの不安からくる偏見などに対し、正しい知識を持とうとした市民の行動がうかがうことができる。同センターの堂本祥子所長は、「最も身近な人権課題と捉える自治会があったということ」と話す。
この人権学習の一助になればと、同センターは20年8月、「STOP!コロナ差別 こころの感染を防ごう」と題したチラシを作成し、各自治会に届けた。堂本所長は「不確かな噂に惑わされないでほしいという思いだったと、当時の担当者から聞いている」とする。実際に、このチラシを用いて学習会を開いた自治会があったという。
今後、新たなウイルスが現れる時が来るかもしれない。生かすべき教訓として、堂本所長は「不確かな情報や噂などは、今はSNS(交流サイト)などで簡単に広まってしまう。受け取った側も不安になり、情報が確かかどうか確認しないまま拡散してしまうことも考えられる。正しい情報を見極め、それに基づいた行動や言動をすることに尽きるのではないか」と話す。
チラシには記されている。「命を脅かすものに対して恐れの感情を抱くことは、私たちに備わっている本能」「恐れているものが目に見えなければ恐れは増大して、見える対象を必要とし、その対象を遠ざけることで安心感を得ようとする」「恐れるべきものがウイルスから人へと変わり、偏見や差別が生まれている」「私たちが立ち向かうべき相手は人ではなく、ウイルスであることを認識しましょう」―
この思いを持ち続けたい。これからも変わることなく。