今夏も連日の猛暑日となり、全国的に観測史上最も暑かった昨年に匹敵する暑さになる可能性が指摘されている。そうなると怖いのが「熱中症」。農村部の兵庫県丹波篠山市消防本部の統計では、市内でも毎年数十人が救急搬送されており、中でも目立つのが「草刈り中」に発症するケース。背景には、田畑の「見栄え」を気にする農村独特の心理がうかがえる。
昨年、市内では55人が熱中症や熱中症疑いで搬送されている。年代別に見ると、▽10歳未満=4人▽10代=7人▽20代=2人▽30代=2人▽40代=5人▽50代=3人▽60代=3人▽70代=16人▽80代=11人▽90代=2人―。体内の水分量が少なく、熱中症になりやすいとされる65歳以上が64%を占めている。
うち軽症が40人、中等症が13人、重症が2人。▽意識もうろう▽動悸▽立ちくらみ▽足の痙攣▽ふらつき―などの症状があり、重症では意識消失にまで至っている。死者はなかった。軽症と中等症の内訳をみると、屋内23人に対して屋外が30人で上回った。
住居や仕事場など、発症場所をさらに細分化して全国的な傾向と比較すると、おおむね似たような割合になるが、差が目立つのは「その他」。全国ではその他が5・3%なのに対し、丹波篠山では22%となっている。
市消防本部によると、その他の中には公園や河川、ゴルフ場、田畑などがあり、市内の割合を押し上げているのは田畑。草刈り中や農作業中に発症して搬送されるケースが多く、都市部にはない農村部ならではの発症場所とも言える。
田畑は屋外にありながらも、所有者にとっては自分の家や庭のような場所であり、人の目にふれるため、多くの農家が定期的に草刈りをして景観を維持している。また、草刈りには農作物にとっての害虫の発生を防ぐ防ぐ効果もある。
同本部は、「暑い中、地域の景観や美観の思いで『草が伸びていたらいけない』と作業をされ、搬送に至ることがある。少々草が伸びていても気にせず、命を守ることを第一に考えるように意識を変えてほしい」と訴える。
昨年、危うく熱中症で救急車を呼ぼうとしたことがある市東部の男性(76)も草刈り中にめまいを起こした。「雨の後で草がぼーぼーだったので、近所の目を気にして真夏に草刈りをした。朝の早いうちなら大丈夫だろうと思っていたら、しばらくしたら手足がしびれて動けなくなった。死ぬかと思った」と振り返り、「最近は朝でも暑い。あれ以来、時間帯ではなく、温度計を見ながら作業に出るように変えた」と話す。
今年は昨年を上回るペースで搬送者が出ている。市健康課は、「熱中症で亡くなる人は自然災害の死者よりも多い。高齢者は喉の渇きが鈍くなることもあるので、より危険」と指摘し、外に出る際のポイントとして、「飲み物を持って出て、休憩時に飲む人がいるが、外に出る前にも飲んで体の水分量を増やしておくことが大切。意外と知られていないので、ぜひやってほしい」と勧める。
ただ、消防本部も健康課も、「『ちょっとだけ』と油断したときに発症する」とし、「田畑の〝見栄え〟を気にして作業に出てしまう気持ちも分かるが、命には代えられない。暑いときは外に出ないで」と口をそろえて強く呼びかけている。